F1の表彰台で輝くトロフィーは、レース当日の華やかさとは対照的に、長い準備期間を経て生み出される。制作には最長3カ月を要し、デザイン決定から製造工程まで、複数のステップが緻密に積み上げられている。今回、ラスベガスGPのクリエイティブディレクター、ケン・オザワ氏の証言をもとに、F1トロフィーがどのように誕生するのか、その全工程が明らかとなった。
デザインを決めるのは誰か?優先権はスポンサーにF1で新しいトロフィーを作る際、まず決められるのが“誰がデザインするか”。鈴鹿の担当者によれば、この優先順位は明確で、(1)タイトルスポンサー(2)ナショナルスポーティングオーソリティ(日本ならJAF)(3)サーキット運営の順でデザイン権が与えられる。デザインが決まると、F1が定めるガイドラインに基づき、サイズや重量、表記ロゴなどの要件を満たす必要がある。特に重量は「疲れ切ったドライバーが問題なく掲げられる」ことが条件で、2位・3位用は必ず小型にするよう定められている。“無限の可能性”を持つ造形 歴史重視のサーキットもこうした最低条件を満たした上で、デザインの自由度は驚くほど高い。ザントフォールトは1939年由来の意匠を採用し、アルバートパークは“サー・ジャック・ブラバム・トロフィー”を毎年授与。シルバーストンのRACゴールドカップのように、勝者へ受け継がれる“持ち回り”も存在する。一方のラスベガスは、街の文化そのものを反映した完全新作のトロフィーを採用している。ラスベガスGPの象徴 “夜に光る”特製トロフィーの誕生オザワ氏は「F1は開催地の文化を映し出すトロフィーを推奨している」と語り、自身が地元ラスベガス出身であることから、街の地質とネオン文化を融合させた独自デザインを構築した。2023年の初開催以降、ラスベガスGPのトロフィーは発光ギミックを搭載。トップ部分にLEDライトを仕込むことで、ナイトレース特有のネオン景観を象徴する仕上がりとなっている。「照明システムは複雑でコストも高くついたが、ラスベガスの夜を象徴するために欠かせなかった。トップのクローム形状は、220mphでストレートを駆け抜けるF1ドライバーが目にする光の流れをイメージしている」とオザワ氏は説明する。最終デザインはラスベガスGPのCEOエミリー・プレイザー氏が承認し、F1のガイドラインと照合した上で制作に移される。制作開始は開幕3カ月前 3Dプリント×金属加工×LED制作工程はレースの約3カ月前からスタートする。まずはベース部分の鋳型を製作。3Dプリントした原型をもとに、ブロンズ製のベースを複製し、フェリックナイトレート処理で“砂岩のような質感”を与える。本体となるトップパーツは樹脂を3Dプリント後、クロームメッキを施し、内部に白色LEDを格納。ネオンカラーのレンズ越しに光が放たれる設計だ。さらに、ベース内部には充電式バッテリーも搭載される。完成後は航空機アルミで作られた専用ケースに収納され、表彰台の瞬間まで厳重に保管される。デザインは“数年単位”で継続 アイコンになるためにラスベガスGPは3年連続で同じトロフィーデザインを採用している。オザワ氏はその理由を次のように語る。「成功したデザインは数年間継続すべきだ。そうすることでトロフィーがレースの象徴として認知され、アイコンになっていく」ただし、スポンサー企業がトロフィーに自社色を反映したがる場合や、ファンやドライバーからの評価が「古く感じる」と判断された場合には、新デザインを検討する可能性もあるという。
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