2026年シーズン序盤、アストンマーティンの苦戦を巡ってホンダのパワーユニット開発に厳しい批判を向けたエイドリアン・ニューウェイ。その発言はホンダとアストンマーティンの新たな提携関係に亀裂を生じさせる可能性すら指摘された。しかし、HRC(ホンダ・レーシング)の渡辺康治社長は対立を深めるのではなく、率直な対話を重ねることで関係修復を進めてきた。現在では両者の協力体制は強化されつつあり、ホンダは苦境からの巻き返しを目指している。
ニューウェイの厳しい批判が波紋オーストラリアGPでニューウェイは、ホンダ製パワーユニットが引き起こす振動によってドライバーの安全性が脅かされていると指摘した。また、ホンダがプロジェクトの実情や開発状況について十分な情報を共有していなかったとも主張した。こうした発言は、2015年にマクラーレンとの提携が破綻へ向かった際を思い起こさせるものだった。当時のアストンマーティンはパワーユニットだけでなく、車重超過や空力性能不足、ギアボックスの問題など複数の課題を抱えていたが、ニューウェイの発言によってホンダに批判が集中する状況となった。渡辺社長が選んだ対立ではなく対話それでもホンダは反論による応酬を避け、自らの問題を認めながら改善に取り組む姿勢を示した。渡辺康治社長はニューウェイとの関係について次のように語っている。「エイドリアンとの社内での会話は非常に率直でオープンなものです」「もちろん、彼が外部メディアに対して語った内容には一定の影響がありました。しかし重要なのは、問題を解決するためにお互いが正直かつ率直に話し合えるかどうかです」さらに渡辺社長は、その姿勢をアストンマーティン全体との関係構築にも貫いてきたと説明する。「私たちはアストンマーティンに対しても同じ姿勢を取りました。その結果、問題を一つひとつ解決していくことができました」「理想的な関係が最初から築かれていたわけではありません。時間も経験も必要でした」「ホンダとアストンマーティンの関係は日々強くなっています。私は非常に満足していますが、そこに至るまでには時間が必要でした。以前のパートナーとは仕事の進め方も異なります」レッドブル時代とは全く異なる環境渡辺社長は、ホンダがレッドブルとの黄金時代から現在の苦境に陥った背景についても説明した。「レギュレーションは大きく変わりました。そして今回の規則は非常に難しいものです」「私たちにとって全てが新しい挑戦でしたし、レッドブル時代とは状況が大きく異なっていました。新たなパートナーとゼロから関係を築くことは大きなチャレンジでした」2026年に導入された新規則は内燃機関と電動システムのバランスが大きく変化しており、各メーカーとも開発に苦戦している。ホンダも例外ではなかった。F1撤退が残した大きな空白さらにホンダは一度F1撤退を決断したことで、開発体制そのものを縮小していた。渡辺社長は当時の状況を振り返る。「2022年3月末にエンジニアをホンダ本体へ戻し、2023年4月にF1復帰を発表しました。その間、F1活動はほぼ停止状態でした」「もちろんレッドブルへの供給は続けていましたが、担当エンジニアの数は非常に限られていました」復帰決定後は技術者の再招集や新規採用を進めたが、即座に体制を再構築することはできなかったという。「F1復帰を発表するとすぐに、ホンダ本体からエンジニアを呼び戻し、新たな人材採用も始めました。しかし時間がかかりました」「すぐに全員を戻すことはできませんでした。リーダークラスの人材が戻るまで2か月、エンジニアによっては3か月必要でした」「体制を100%まで回復させるのにほぼ1年を要しました」ホンダはいつ苦境を脱するのかホンダは現在、ADUO制度による追加開発機会を活用しながらパワーユニットの性能向上を進めている。またアストンマーティン側も、夏以降に投入予定のAMR26Bによってシャシー面の抜本的な改善を目指している。シーズン序盤はニューウェイの厳しい批判によって提携崩壊説まで浮上したが、渡辺社長が選んだのは対立ではなく対話だった。ホンダとアストンマーティンは互いの課題を認識しながら関係を深めており、今後のアップデートが両者の再浮上を左右することになりそうだ。【関連】・ホンダF1 新PU投入はアストンマーティンAMR26Bと切り離し HRC体制見直しも示唆