本田技研工業、レース運営子会社のホンダ・レーシング(HRC)、鈴鹿サーキット運営子会社のホンダモビリティランド(HML)は、2025年のF1世界選手権の開幕にあたり、F1開幕前説明会を開催した。HRC代表取締役社長 渡辺康治、HRC F1 パワーユニット開発総責任者 角田哲史、HML代表取締役社長 斎藤毅が出席して説明を行った。
ホンダとF1の関わりF1初優勝から60年1964年、ホンダはF1への挑戦を開始した。当時のホンダは、四輪車生産を始めてまだ2年目。無謀ともいえるが、高い目標を掲げ、果敢に挑むというホンダの企業文化を象徴する挑戦だった。1964年シーズンは3レースに出場したものの、全てリタイアに終わった。翌1965年、最終戦となるメキシコグランプリは標高2,000mの高地での開催であり、空気が希薄なため、エンジンに厳しいサーキットだった。そこでホンダが開発した燃料噴射装置が非常に有効に働き、ホンダのマシン「RA272」は、スタートからフィニッシュまで終始トップを走り続け、F1初優勝を果たした。2025年は、初優勝から60年の節目の年に当たる。現代F1の進化と、HRCのオペレーション1964年の初参戦から60年以上が経過し、時代や環境は大きく変わった。2014年にはF1がハイブリッド技術を導入し、「エンジン」は「パワーユニット(PU)」に変わった。ホンダ F1第三期の2008年から、ハイブリッドシステム搭載後の2016年の8年間で、最高出力は200馬力以上向上し、一方で最高出力が出る瞬間に必要な燃料は3分の2にまで抑えられるようになった。現代のF1は、燃料の持つエネルギーを最大限動力に換えるため、熱効率を極限まで高める、世界一のハードウェアを決める技術開発の舞台になっている。F1開催サーキットとリアルタイムで結ばれているHRC SakuraのSMR(Sakura Mission Room)また、デジタル技術の進化も大きな変化だ。F1マシンに取り付けた数百個のセンサーからの情報は、瞬時に栃木県にあるHRC Sakuraに送られ、解析され、次のマシンセッティングに反映される。取得するデータの項目は、F1第三期の時代には3,000ほどであったものが、現在は20,000以上にまで増加している。これらのデータを解析して、PUに何が起きているのか把握して性能を引き出さなければ、F1の戦いで勝つことはできない。例えば、レース中もリアルタイムでPUのエネルギーマネジメントを変更しながら戦っている。これらの解析・設定に使用するソフトウェアもHRCで開発している。F1はハードだけでなくソフトも含めた、世界最先端のデジタルの戦いでもある。また、現代F1はレース数が増加し、2025年は世界中で24戦が行われる予定であり、その3分の1を欧州が占める。1シーズンを戦うには複雑なオペレーションが要求されるため、2023年に米国のHPDをHRC USに改編したことに続き、2024年には英国・ミルトンキーンズにHRC UKを設立し、活動を開始した。HRC UKは、新たにアストンマーティンF1チームとタッグを組む2026年以降も、ホンダ F1の活動拠点として重要な位置づけとなる。ホンダの英国での活動拠点となるHRC UKF1挑戦の意義:技術者を育てるF1は2週間ごと、時には毎週レースがあり、限られた時間で目標を設定して1馬力を積み上げ、現場では千分の1秒を争う圧倒的な速さと精度が求められる。こうした環境に身を置くことでしか得られない経験は、技術者を大きく成長させる。F1は最先端であるがゆえに、そこで使われる技術はそのまま製品に適用できるものではない。しかし、F1を経験したエンジニアが、量産車のハイブリッド技術「e:HEV」や、「eVTOL」の開発に携わるなど、Honda全体で新たな価値を生み出す原動力になってる。2025年 レッドブルとのラストシーズン、そして2026年へ2018年に始まったF1でのレッドブル・グループとのコラボレーションは今年が最終年となる。2019年オーストリアグランプリでのホンダ F1第四期初優勝、ブラジルグランプリでの1-2フィニッシュ、2020年イタリアグランプリでのスクーデリア・アルファタウリの優勝。そして2023年には22戦21勝という、F1史上過去最高の勝率、そのいずれをもレッドブル・グループとともに成し遂げました。またホンダの技術が入ったPUが、マックス・フェルスタッペンの2021年から4年連続でのドライバーズチャンピオン獲得に貢献してきた。ラストシーズンとなる2025年も、チャンピオン獲得を目指し、最後まで全力で戦っていく。2026年シーズンは車体もPUも新しいレギュレーションとなる。現在、エンジンとモーターの最高出力の比率はおよそ8対2だが、2026年にはほぼ5対5となり、単位時間に使用できる燃料の量も減少する。また、燃料は100%カーボンニュートラル燃料が義務付けられる。さらに、こうした技術開発を一定のコスト制限の下で行う規則が適用される。これら3点の新レギュレーションは、F1のサステナブルな未来への志向に基づくものであり、ホンダのカーボンニュートラルの方向性に合致している。新レギュレーションは高いハードルではあるが、2026年シーズンに向けて、引き続き全力で開発に取り組んでいく。F1活動によるブランド力向上F1の成長:北米での人気の高まり1950年に始まったF1は、世界最高峰の四輪レースとして地位を確立し、今年で75周年を迎える。テクノロジーを競い合う競技・スポーツとしての側面はもちろん、世界有数のエンターテインメントとして広がりをみせている。年間延べ650万人がサーキットで観戦、TV視聴者数は年間で累計15億人を超え、グローバルファンは7億人以上といわれている。背景には、2016年に米国企業のリバティメディアがF1の興行権を買収したことや、Netflixのドキュメンタリー番組による北米でのF1人気の高まりがあり、2025年は全24戦中5戦が北米で開催される予定となっている。また、2023年のF1の総収入は、前年比25%増加の32億USドルに達し、巨大なスポーツビジネスへと成長している。特に若年層ファンの拡大が顕著で、2022年シーズンには、25歳以下の観戦者数が前年に対し21%増加しており、2023年にはF1公式ソーシャルメディアのフォロワー数は7,000万人超となり、2018年の1,850万人から大幅に増加した。北米はホンダにとっての主要市場であり、F1の活動はホンダのブランド力向上に大きな貢献ができると考えている。さらに、世界的な人気の高まりに伴い、BtoBビジネスの側面でも、多様なパートナーが増えており、IT、金融、ファッションなど、さまざまな業界から注目が集まっている。日本の状況・今後の可能性...
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