ホンダF1でレッドブルのチーフメカニックを務める吉野誠が“PUメカニック”の仕事について語った。「メキシコGPからの連戦になった先週末のアメリカGPでは、ホンダ F1としてシンガポールGP以来の表彰台を獲得することができました。応援いただいた皆さん、ありがとうございます!個人的には、3位という結果はもちろんですが、またトップと争えるポジションに戻ってこられたことの喜びの方が大きいですね」と吉野誠は Honda Racing F1 のサイトでコメント。
「私の仕事で言えば、大きなトラブルなく比較的順調な週末だったと言えます。ただ、“バック・トゥ・バック”と呼ばれる2週連続のレースで、さらに高地のメキシコが体調を崩しやすい環境だったことも手伝って、メンバーにとってはタフな週末になったと思います。今回のアメリカGPに向けた準備にあたり、HRD-Sakuraと英国のミルトンキーンズからパワーユニット(PU)をメンテナンスするためのサポートメンバーが米国入りし、週の初めから作業をしてくれていました。2週連続のレースの場合だと準備の時間がとてもタイトになることが理由ですが、火曜と水曜のオースティンは気温が朝方に氷点下、日中も5℃という状況で、ガレージも極寒の環境でした。そんな中で滞りなくレースができるよう懸命に準備を進めてくれたメンバーには感謝をしています」「メカニック」と「エンジニア」の違いは?「皆さん、普段F1を見ていると『ドライバー』以外に、『メカニック』や『エンジニア』という言葉を時々耳にするかもしれません。外から見ていると違いが分かりにくいのですが、2つの仕事は大きく異なっています。マシンやパワーユニット(PU)から随時飛んでくるデータを見て、分析したり戦略を立てたりするのがエンジニア。一方で、メカニックは実際にマシンやPUに触り、組み立てやメンテナンス作業をする人たちのことです。TVに映っている人で言えば、レース中にピットウォールやガレージでモニター画面の前にいるのがエンジニア、タイヤ交換などの作業を行っている人たちが(チーム側の)メカニックです」「ただ、私たちホンダのメカニックは、PUに関わる作業を行う『PUメカニック』ですので、タイヤ交換を行うことはなく、プラクティスや予選セッションの前後や最中などに、PUのメンテナンスや交換作業を行っています。レースの際には、1チームの中にホンダからマシンごとに1名ずつのPUメカニック、1名のバッテリー担当メカニック、それに私のようなチーフメカニック1名という計4名が働いています」「現在の私の役割であるチーフメカニックの仕事としては、ホンダの各メカニックの仕事内容や働き方を管理する、マネジメント業務です。私たちの仕事は移動も多く勤務時間も長いので、体調管理なども含めて働き方のマネジメントはとても大切です」一つのミスも許されない「私たち、メカニックの仕事の難しさを一言で表すとすると、『絶対にミスが許されない』ということでしょうか。チームとホンダのファクトリーには、おそらく1000人以上もスタッフがいて、たった2台のマシンを走らせるために日夜懸命に仕事をしています。そして、そこには当然莫大なコストもともなっています」「一方で、メカニックの作業ミスにより、例えばPUに使われている数百本のネジのうちの1本が緩んでいると、レース中にPUが止まったり、ドライバーを危険に晒したりする可能性があります。つまり、自分の小さなミス一つで、多くの人たちの努力や多額の投資が水の泡になるばかりか、ドライバーの生命が奪われるという事態さえ起こりうるのです。そのような大きなプレシャーの下、限られた時間の中で迅速かつ正確な作業をする能力が、私たちメカニックには常に求められています」ホンダのメカニックに受け継がれるスタンダード「そうは言っても、だれしも人間ですから、100%ミスをしないということはあり得ません。ただ、ミスの発生を未然に防ぐことや、発生した際にすぐに気付く仕組みを作ることは可能です。そういった『仕事の流れ』を作り上げることが、私たちに課せられた重要な役割のひとつだと思っています」「私が先輩からよく言われていたのは、『準備が9割、仕事が1割』という言葉です。どれだけ準備を充実させられるか次第で、仕事の質が決まるという考え方で、ホンダのメカニックの中では昔からスタンダードになっています。どうすれば一番速く、正確に作業ができるか。そのために工具を改良できることはないか。本番ではどのような環境になるのか。そういったことを一人ひとりが考え、知恵や経験を出し合いながら、小さな改善を積み重ねます」「時間に制約がある中で作業するという点については、練習と経験、そして事前のシミュレーションがものを言います。プレッシャーの下でも焦らないというのは簡単ではありませんが、日ごろの心がけと万全の準備があり、自分に自信を持てていれば可能なことです。この辺りはメカニックだけでなく、意外と世の中のすべての仕事に共通する考え方かもしれませんね。チームもホンダも、特にサーキット現場には、そういったことができるメンバーが選ばれて来ていると思っています」
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