FIAが2031年以降の次世代F1エンジン規則として検討を進める「独立系メーカーによるカスタマーエンジン」構想について、元F1テクニカルディレクターのゲイリー・アンダーソンが「過去にも失敗したアイデアであり、今回もうまくいかない」と厳しく批判した。アンダーソンはV8エンジンへの回帰や車両軽量化には賛成の立場を示す一方で、メーカー製パワーユニットと独立系カスタマーエンジンを共存させる構想はF1を「持つ者」と「持たざる者」に二分しかねないと警告。
独立系メーカーを活用するのであれば、別の形で制度設計すべきだと提案している。カスタマーエンジン構想は「過去にも失敗した」アンダーソンは、FIA会長モハメド・ビン・スライエムが提唱したカスタマーエンジン構想について、「一見すると理にかなっているように思えるが、実際には数多くの問題を抱えている」と指摘した。「権限を持つ人物が思いつきのような発言をすると、『口を開く前によく考えろ』という言葉を思い出す」そう切り出したアンダーソンは、将来的なV8エンジン導入には賛成の立場を示した。「将来のV8エンジン規則には全面的に賛成だ。追い抜き補助程度のシンプルな電動回生システムを組み合わせれば、F1が失った迫力あるサウンドも戻ってくる。DRSやアクティブエアロに頼る必要もなくなるだろう」さらに100kg近い軽量化という目標にも前向きな見解を示した。「100kg減は少し野心的かもしれないが、各チームの設計陣なら十分に挑戦できるはずだ」しかし、その一方でメーカー製PUと並行して独立系カスタマーエンジンを導入する構想については、「極めて大きな方向転換」であり、慎重な議論なしに進めるべきではないと主張した。2010年にも似た構想は頓挫アンダーソンは過去のF1でも同様の試みが存在したと振り返る。2010~2012年に向けて、全チーム共通の標準エンジンとギアボックスを導入するための入札が実施されたが、最終的には実現しなかった。「私は十分長くF1に関わってきた。この話は以前にも見てきた。そしてその時もうまくいかなかった。今回もうまくいかないだろう」さらに1970年代のF1を例に挙げ、当時はフェラーリやBRM以外の大半がコスワースDFVエンジンを使用していたことを紹介。しかし、その後メーカー参入が進むにつれてプライベーターは姿を消し、コスワースも2013年のマルシャを最後にF1から撤退したと説明した。一方で、BMWやトヨタ、プジョー、ホンダなど多くのメーカーが経営判断ひとつでF1から撤退してきた歴史も忘れてはならないと指摘している。現在のPU問題は「99%がFIAの責任」アンダーソンは現在の複雑なハイブリッドPUそのものについても厳しい見方を示した。「現在抱えているパワーユニットの問題は99%がFIAによって生み出されたものだ。規則を書いたのはFIAであり、残り1%はメーカー側の要望だろう」2014年のハイブリッド導入時にも反対意見は多く、2026年規則についてもエネルギー回生と放出バランスに問題があるという指摘が繰り返されてきたが、それらは聞き入れられなかったという。「持つ者」と「持たざる者」に分かれる危険性アンダーソンは、安価な独立系エンジンが導入されればチーム間格差を固定化する危険があると警告した。「低価格で独立メーカー製エンジンを認めれば、F1はすぐに『持つ者』と『持たざる者』の選手権になる」メーカー系チームが顧客チームを支配しているという懸念についても否定的だ。「メーカーの言うことを聞かなければ不利な扱いを受けると考えるチームもあるが、それは被害妄想だ。まず自分たちのパッケージを最大限活用すべきであり、他人のせいにするべきではない」一方で、メーカー側がカスタマーエンジンの性能を意図的に低く抑えるよう圧力をかけることは避けられないとも予想する。「メーカーは莫大な資金を投じている。安価なエンジンに負けることを望むはずがない」結果として、コストキャップや空力テスト制限など近年進められてきた戦力均衡策とも矛盾すると指摘した。独立系メーカーは参入可能にすべきアンダーソンは、独立系メーカーの参入自体には反対していない。その代わり、FIAとリバティ・メディア、既存PUメーカー、独立系エンジンメーカーが共同で、よりシンプルな次世代エンジン規則を策定すべきだと提案する。また、シーズン供給価格には上限を設け、独立系メーカーが自由にエンジンを開発・販売できる環境を整えるべきだと述べた。さらに各メーカーには最低2チーム、最大3チームへの供給を義務付ければ、現在のメーカー数だけでも10~15チーム分の供給能力を確保できると試算している。現状では、メルセデス:4チームフェラーリ:3チームレッドブル:2チームホンダ:1チームアウディ:1チームという供給体制になっており、このバランスを見直すだけでも外部サプライヤーを必要としない体制が構築できるという考えだ。V6自然吸気という代替案も提示アンダーソンはV8だけが選択肢ではないとも主張する。「FIAはV8だけでなく、大排気量の自然吸気V6も検討すべきだ」2.4リッター自然吸気V6なら、ファンが求める出力とサウンドを十分実現できると説明した。また、ターボチャージャーは排気音を大きく抑えてしまうため、FIA会長が「ターボはサイレンサーのようなもの」と語った点にも同意している。ハイブリッドは追い抜き専用に最後にアンダーソンは、ハイブリッドシステムを完全に廃止するのではなく、役割を限定する案も提示した。回生は現行同様にブレーキング時のみ行い、蓄えた電力は前車の1秒以内でホームストレートを通過した場合のみ使用可能とする。例えば4MJの電力を1周の中で自由に使い切り、使用しなければリセットされる方式なら、現在のDRSより自然な追い抜き支援になるという。「人工的ではある。しかし、これまで導入された追い抜きシステムの中では最も人工的ではない方法だ」アンダーソンは、F1にはさまざまな改善案が存在するものの、それらが十分に耳を傾けられてこなかったことを最後に嘆いた。今回の提言では、独立系エンジンメーカーの存在そのものを否定するのではなく、FIAが検討する「安価なカスタマーエンジン」という構想ではチーム間格差を助長すると警鐘を鳴らした。V8あるいは自然吸気V6を軸としたシンプルな規則と、公平な供給体制の構築こそが、F1の将来に必要だと訴えている。
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