元世界ラリー選手権(WRC)王者でありダカール・ラリーの勝者でもあるカルロス・サインツSr.が、次期FIA(国際自動車連盟)会長選への出馬を検討していることが明らかになった。モータースポーツ界の複数の有力関係者から出馬を打診されていると、オートスポーツ誌が報じている。関係者によれば、63歳のサインツSr.は、同じく元ラリードライバーで現FIA会長のモハメド・ビン・スライエムに対抗する形で立候補を真剣に考えており、「前向きかつ建設的なプログラム」を提示し、会長選における代替案を示すことを目的としているという。
モハメド・ビン・スライエムは2021年末、ジャン・トッド前会長の後任としてFIA会長に就任。しかし、その在任期間は数々の論争や組織内の混乱に揺れてきた。次回のFIA総会および会長選挙は、2025年12月12日にウズベキスタン・タシュケントで行われる予定となっている。今年初めには、F1アカデミーのマネージングディレクターであるスージー・ヴォルフが出馬を検討しているとの憶測もあったが、これについてはすでに否定されている。内部ガバナンスを巡る混乱と反発一方、FIA内部では統治に関する深刻な問題が相次いでいる。先月にはスポーツ部門副会長のロバート・リードが辞任。「ガバナンス基準の根本的な崩壊」および「適正な手続きを経ずに下された重大な決定」があったと指摘した。2月には、FIA世界モータースポーツ評議会の会合において、非開示契約への署名を拒否した複数のメンバーが出席を拒否される事態が発生。リードや英国代表のデビッド・リチャーズも署名を拒否し、後にリチャーズはFIAのガバナンスに対する懸念を記した公開書簡を発表した。その書簡では、「FIAの統治および憲法構造はますます不透明となり、権力が会長個人に集中している」「指導部の道徳的なコンパスが変わってしまっており、透明性や開かれた議論を求める声を無視するような状況は看過できない」と警鐘を鳴らしている。モハメド・ビン・スライエムは、FIA内部のみならず、ドライバーたちとの間でも摩擦を引き起こしている。彼が導入した「罵声禁止」方針に対しては、ラリードライバーたちが英語でのインタビューを拒否し、F1ドライバーたちも「大人として扱ってほしい」とする公開書簡を提出するなど、抗議の声が広がった。他にも、モハメド・ビン・スライエムはレース結果への不当介入の疑いで調査を受けたが、最終的には潔白とされた。また、SNS上でF1の価値に関する発言を行ったことで、F1側の弁護士から「中止命令書」を受け取った事例もある。さらに過去の女性蔑視的な発言が再浮上し、批判を浴びた。2023年末には、FIAの主導でメルセデスF1代表のトト・ヴォルフとその妻スージー・ヴォルフに対する利益相反の疑いに関するコンプライアンス調査が開始された。しかし、F1の他の9チームが「問題はない」とする共同声明を発表したことで、調査はわずか2日で撤回され、現在はFIAが法的措置に直面している状況だ。今回のサインツSr.による出馬検討は、こうした現体制への不信感が高まる中での象徴的な動きともいえる。FIA会長選には今後も複数の対抗馬が名乗りを上げる可能性があり、選挙戦の行方が注目されている。