2025年シーズン終盤、F1ドライバーたちが繰り返し訴えてきた「前車を追走しにくい」という問題が、ついにFIAの詳細データで裏付けられた。FIAが最新のCFD解析(流体解析)を公開し、今のマシンがどれほど“汚れた乱流=ダーティエア”を後方へ放出し、追走性能を損なっているかが数値として明確になった。その一方で、新空力レギュレーションが導入される2026年には、この問題が大きく改善される見通しも示されている。
2025年シーズン終盤、F1ドライバーたちが繰り返し訴えてきた「前車を追走しにくい」という問題が、ついにFIAの詳細データで裏付けられた。FIAが最新のCFD解析(流体解析)を公開し、今のマシンがどれほど“汚れた乱流=ダーティエア”を後方へ放出し、追走性能を損なっているかが数値として明確になった。その一方で、新空力レギュレーションが導入される2026年には、この問題が大きく改善される見通しも示されている。2022年と比べて“4倍悪化”した追走性能FIAが2022年の新レギュレーションで目指したのは、「前の車に近づきやすいF1」。初年度はその狙いが明確に反映されており、2台が2台分の車間距離(約20m)で走行した際のダウンフォース喪失量は わずか5% ほどだった。しかし開発が進んだ2025年には、この値が 約4倍悪化。現在のマシンは、2022年初年度の理想から大きく遠ざかっている。FIAが示した主な数値は以下の通り:■ 1台分=約10mの距離・2019年:前車のダウンフォースの 55%・2022年(開発前の想定モデル“UNIFORM”): 85%・2025年実測: 65%■ 2台分=約20mの距離(実戦で最も重要)・2019年: 65%・2022年: 95%・2025年: 80%2022年に大幅改善されたはずの“追走性”は、開発競争の中で 2019年レベルに近づきつつある。これが近年のレースが“プロセッショナル(行列)”に見える最大要因といえる。2026年は再び改善へ。FIAが目指す「劣化を防ぐ空力」FIAが2026年用に設計した新しいベースモデル(コード名“FANGIO”)では、・10mで 80%・20mで 90%のダウンフォース保持を達成している。数字だけを見ると「2022年より悪いのでは?」と思えるが、実は意図的だ。2026年車では重量削減のためにホイールアーチやホイールカバーといった“乱流抑制アイテム”を廃止しており、その分の差が含まれている。その上で 空力マップの形状を最適化し、ドラッグロス(スリップストリーム効果)を強める設計 がなされている。また2026年車は現在の極端な“低車高ベタベタ”でもなく、旧世代のハイレーキでもない、 中間的な車高 で走るよう設計される。これにより、前車の乱流による挙動変化に強くなるとFIAは説明している。FIAシングルシーター部門責任者のニコラス・トンバジスは「2026年車はこれまでで最も良い追走特性になると信じている」と語る。なぜ追走性能は“劣化”したのか? 2022年レギュレーションの教訓2022年の新レギュレーションは、もともと“ダーティエアの抑制”を主目的としていたが、チーム側が数多くの抜け道を発見し、開発を進めたことで、結果的に乱流は年々悪化した。主な原因領域は以下の通り:■ フロントウイングエンドプレート■ フロントブレーキダクト内のエアロ■ フロア外縁部■ ディフューザーのエッジ形状特に2022年のメルセデスは、本来想定されていなかった“アウトウォッシュ方向の流れ”を作るエンドプレート形状を導入。これを受け、FIAは2023年に規則を厳格化したが、依然として別の手法で類似効果を生み出すことが可能だった。この“イタチごっこ”を防ぐため、FIAは2026年レギュレーションで各領域を大幅に厳格化。開発の自由度が減る分、汚れた乱流(dirty wake)が再び急激に悪化するリスクが抑えられると見られている。2026年は改善確実。ただし“劣化スピード”が最大の焦点にF1の根本的な空力原理として「乱流を完全になくすことは不可能」である。メルセデスのジェームス・アリソンが「風車に突撃するドン・キホーテのような戦い」と表現したように、ルールでどこまで抑え込めるかには限界がある。重要なのは、2026年に改善されても、その後どれだけ“劣化”するか。2022年の轍を踏まないため、FIAは“劣化しにくい”レギュレーションを設計している。ただ、レースの面白さは空力だけで決まらず、・2026年に刷新されるPU(電力比率50/50)・ピレリタイヤの性質・車重の変化など、複数の要素が絡む。それでもFIAの解析結果は、2026年の開幕時点では明確に“追走しやすいF1”に戻る ことを示している。あとは開発競争が再びどれだけ乱流を増やすか——F1の永遠のテーマである“空力との戦い”は、これからも続くことになる。