キャデラックF1チーム代表のグレアム・ロードンは、同チームが準備を進めている旧型車テスト(TPC:Testing of Previous Cars)について、「車の開発ではなく“チームを仕上げるための訓練”」だと語った。2026年のF1参戦を控えるキャデラックF1は、実戦データを持たない新チームとして、従来のTPCの概念を“再定義”し、レースオペレーションの完成度を高めることを最優先にしている。
ロードンはF1公式ポッドキャスト『Beyond the Grid』の中で、「TPCはテクニカルな学習の場ではなく、組織と人のためのテストだ」と強調した。「メルボルンの開幕戦で“初めてのこと”が何一つ起きないようにするために、チーム全員の動きを今のうちに仕上げておく」と語っている。“エンジニアリング”ではなく“オペレーション訓練”ロードンは、TPCを「車を速くするテスト」ではなく「チームが正しく機能するかを確認する訓練」と位置づける。「TPCとは“Testing of Previous Cars”の略だが、我々には“前の車”が存在しない。だが重要なのは車ではなく、チーム全体を訓練することだ。メカニックが実際の車に触れ、ピットストップやガレージ作業の感覚を取り戻す。それが目的なんだ」「車の速さを測るテストではない。目的は“チームが正しく機能するか”を確かめることだ。来年はレギュレーションも大きく変わるため、性能学習は意味がない。重要なのは人とプロセスを仕上げることだ」F1カーでなくても構わない柔軟な発想キャデラックには旧型F1マシンが存在しないが、ロードンは「F1カーである必要はない」と強調する。「一定年式を超えた車はヒストリック枠(THC)で走らせることもできるし、重要なのは“動く車”でチームを訓練すること。車種にこだわる必要はない。目的に合わせて使える車を使うだけだ」ロードンは、TPCという言葉が“旧型F1車を走らせる義務”を意味するわけではないと説明し、「重要なのは“人が動く練習”であり、マシンは手段だ」と語った。どこでもいい、全員が集まれる場所でテストの開催地についても柔軟な方針を取る。「場所はどこでも構わない。イギリスでも、スペインでも、イタリアでもいい。重要なのはチーム全員が集まり、同じやり方と同じ言語で動けるかを確認すること。天候が安定している場所を選べれば理想的だ」この「全員が集まる」という姿勢は、キャデラックF1が掲げるチームバリュー「All One Team(全員が一つのチーム)」に通じている。“Race Ready”プログラムの実車版キャデラックF1は、現在「Race Ready」と呼ばれる大規模なシミュレーションを行っており、TPCをその“実車版”として位置づけている。「“Race Ready”はシルバーストンとシャーロットを結び、60〜70人がモンツァ週末を完全再現して動くプログラムだ。メディア対応時間まで含めて全てをシミュレートしている。TPCはその“実車版”であり、初陣のメルボルンで“初めてのこと”が起きないようにするための訓練だ」このプログラムにより、キャデラックF1はレース週末のオペレーションを事前に完全再現し、実戦でのトラブルや初期ミスを防ぐ体制を整えている。Cadillac流TPCの核心キャデラックF1の“再定義されたTPC”は、以下の4つの原則に基づく。・車両中心ではなくオペレーション中心・F1車両に限定しない目的主導型の発想・Race Ready(仮想演習)とTPC(実車演習)の統合・分散拠点を越えた“One Team”運用の徹底ロードンは最後にこう締めくくった。「これはチームのリハーサルだ。技術ではなく、人の協調力を試すテスト。Cadillac F1は“全員が一つのチームとして動くこと”を最も重視している。それが我々の哲学なんだ」キャデラックF1の戦略的意義 ― “走らない期間”を使い切る哲学このTPC再定義は、参戦前の“走れない期間”を戦略資産に変える取り組みだ。F1チームにおいては通常、車の完成が遅れるほど現場訓練が制限される。しかしキャデラックF1は、逆に車のない現状を「人と体制を磨くための黄金期間」と捉えた。特筆すべきは、車を造らずして“レースチームを走らせる”という構造的転換だ。旧型車を使わずにTPCを運用するという発想は、レギュレーションの制約を逆手に取った柔軟な組織戦略でもある。また、この「Race Ready+TPC」の二段階訓練は、NASAのアポロ計画を参考に設計されたキャデラックF1の分散運用体制(米国・英国・ドイツ3拠点)とも一致しており、チームとしての“統合的稼働”を最優先するアプローチを象徴している。キャデラックF1が掲げる「All One Team」という理念は、単なるスローガンではない。TPCを通じて全スタッフの行動、無線、動作、判断を“統一言語化”することこそが、その理念の実装である。その意味で、ロードンが言う「TPCは人のテストだ」という言葉は、キャデラックF1が他の新興チームとは根本的に異なる“参入準備哲学”を持っていることを明確に示している。Source: F1 Beyond the Grid