スパ・フランコルシャンは、F1カレンダーの中でも屈指の歴史と伝統を誇るサーキットだ。全長7.004kmと現行F1で最長のコースであり、高低差と高速コーナーが織りなすレイアウトは、ドライバーからもファンからも特別な存在として愛され続けている。その魅力を語るうえで欠かせないのが、それぞれのコーナーに付けられた名前だ。周辺の地名や地形、地域の歴史、そしてベルギーのモータースポーツにゆかりのある人物など、ひとつひとつに由来がある。
ここではスタートからゴールまで、スパ・フランコルシャンのすべてのコーナー名の由来を紹介する。ラ・ソース(La Source)1コーナーのラ・ソースは、「源泉」を意味するフランス語で、アルデンヌ地方に数多く存在する湧き水に由来している。スパ・フランコルシャンでも最も低速のヘアピンであり、スタート直後は全車が密集するため接触事故が起こりやすいポイントでもある。また、ここでの立ち上がり速度はオー・ルージュからケメル・ストレートまでの加速に大きく影響するため、レースでも予選でも非常に重要なコーナーとなっている。オー・ルージュ(Eau Rouge)2~3コーナーのオー・ルージュは、コース下を流れる小川の水が鉄分を多く含み赤みを帯びて見えることから、「赤い水」という意味の名前が付けられた。左から右へ切り返しながら急勾配を駆け上がる世界屈指の高速コーナーで、スパを象徴する存在として知られている。なお、「オー・ルージュ」と呼ばれるのは坂の途中までであり、頂上部分は別の名称となる。ラディオン(Raidillon)4コーナーのラディオンは、フランス語で「急な坂道」を意味する。オー・ルージュの出口から続く丘の頂上に位置する左コーナーで、約15度の勾配を一気に駆け上がるのが特徴だ。オー・ルージュと混同されることが多いが、厳密には別のコーナーである。頂上が見えないブラインドコーナーでもあり、過去には幾度となく大きなクラッシュが発生している。ケメル・ストレートラディオンを抜けると、サーキット最長の全開区間であるケメル・ストレートへと入る。DRSゾーンにも設定されており、スリップストリームを利用したオーバーテイクが数多く生まれる場所だ。名称はかつてケンメルベルグの丘に由来すると考えられていたが、現在ではその説には異論もあり、正確な由来は定かではない。レ・コンブ(Les Combes)5~6コーナーのレ・コンブは、「谷」や「渓谷」を意味するフランス語が由来となっている。ケメル・ストレートの終点に位置する右・左のシケインで、ベルギーGPでも最大のオーバーテイクポイントのひとつだ。激しいブレーキング勝負が繰り広げられる一方、出口では次の区間へ向けたライン取りも重要になる。マルメディ(Malmedy)7コーナーは、旧スパ・フランコルシャンが通過していた町「マルメディ」に由来する。1979年に現在のショートレイアウトへ改修された際、伝統ある旧コースへの敬意を込めてこの名称が受け継がれた。レ・コンブを抜けた直後の右コーナーで、スムーズな立ち上がりがその後の区間のリズムを左右する。ブリュッセル(Bruxelles)8コーナーはベルギーの首都ブリュッセルにちなんで名付けられた長い下りの右ヘアピンだ。以前は近隣集落の名を取った「リバージュ(Rivage)」と呼ばれており、現在でも多くのドライバーやファンが旧称を使い続けている。進入速度の調整とトラクション性能が重要になるテクニカルなコーナーである。ジャッキー・イクス・カーブ(Jacky Ickx Curve)9コーナーは長年「ノーネーム」と呼ばれていたが、現在はベルギーの伝説的ドライバー、ジャッキー・イクスの名が冠されている。イクスはF1で8勝を挙げたほか、ル・マン24時間レースでも6度の総合優勝を達成したベルギーを代表するレーシングドライバーだ。以前は実況席が設置されていたことから「スピーカーズ・コーナー」と呼ばれた時代もある。プーオン(Pouhon)10~11コーナーのプーオンは、「湧き水の場所」を意味する言葉が由来となっている。高速で駆け抜けるダブルレフトであり、F1マシンではほぼ全開に近いスピードで進入することもある。わずかなラインの乱れが大きなタイムロスにつながるため、ドライバーの技量が試される名物コーナーとして知られている。ファーニュ(Fagnes)/ピフ・パフ(Pif-Paf)12~13コーナーのシケインは正式にはファーニュと呼ばれ、近隣に広がる湿原地帯や自然保護区の名称に由来する。一方で、左右へ素早く切り返すレイアウトから、フランス語の俗称である「ピフ・パフ」の名でも親しまれている。縁石をいかに使うかがラップタイムを左右する難所でもある。キャンパス(Campus)14コーナーは現在「キャンパス」と呼ばれ、地元の自動車教育機関「Campus Automobile」に敬意を表して命名された。かつては旧コースが通過していた町の名前から「スタブロー(Stavelot)」と呼ばれており、現在でもその旧称の方が広く浸透している。高速区間へ向けた重要な立ち上がりとなるコーナーだ。ポール・フレール・コーナー(Curve Paul Frere)15コーナーは、ベルギー人レーシングドライバーでありモータージャーナリストとしても活躍したポール・フレールを記念して名付けられた。フレールは1960年のル・マン24時間レースで総合優勝を果たしたほか、F1にも参戦したベルギー・モータースポーツ界の功労者である。高速で抜ける右コーナーで、ブランシモンへ向けた助走区間にもなっている。ブランシモン(Blanchimont)16~17コーナーは高速左コーナーのブランシモン。近隣の村と農場の名前に由来している。一般には17コーナーだけを指すと思われがちだが、実際には16コーナーから続く複合コーナーとなっている。現代F1でも高いスピードで駆け抜ける難関であり、マシンバランスとドライバーの度胸が試される区間だ。バスストップ・シケイン(Bus Stop)18~19コーナーの最終シケインは、その名の通り、かつて公道サーキット時代に実際のバス停が設けられていたことに由来する。2007年のコース改修でレイアウトは変更されたが、「バスストップ」の名称は現在も受け継がれている。最後のブレーキングポイントであり、最終ラップには逆転劇が生まれることも少なくない。スパ・フランコルシャンのコーナー名は、地形や町の名前だけでなく、ベルギーの歴史や文化、モータースポーツへの敬意が込められている。それぞれの由来を知ることで、ベルギーGP観戦ではラップごとの攻防だけでなく、サーキットそのものが積み重ねてきた長い歴史にも触れることができる。
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