2025年F1 ベルギーGP 決勝で各ドライバーが使用可能な持ちタイヤ数と予想されるタイヤ戦略を公式タイヤサプライヤーのピレリが発表した。マクラーレン勢が土曜予選でライバルたちに明確な差をつけたとはいえ──このレースは燃料を軽くしたアタックラップでの数コンマ秒では勝負が決まらない。タイヤ間の性能差、デグラデーション(摩耗)、ストレートエンドのスピード、そして……「刺激的」とも言える天気予報が、このレースを静的な展開から遠ざけている。
これは、今季4回目のポールを獲得し、前戦シルバーストンで勝利したランド・ノリスにとっては聞きたくない内容かもしれない。しかし、予選2番手からスタートするチームメイトであり現チャンピオンシップリーダーのオスカー・ピアストリや、スプリント勝者で4番手スタートのマックス・フェルスタッペン──さらには戦略勝負で浮上を狙うすべての者たちにとっては、朗報となる。昨年はどうだった?昨年のベルギーGPには2つの物語が存在する。ひとつはチェッカーフラッグと表彰台、もうひとつは車検台と文書44、そしてジョージ・ラッセルの失格だ。後者から振り返ろう。レースは2ストップ戦略で争われ、ルイス・ハミルトン、オスカー・ピアストリ、シャルル・ルクレールがいずれも「ミディアム>ハード>ハード」の類似戦略を採用した。ランド・ノリス(最終結果5位)やエステバン・オコン(同9位)も同様の戦略だった。彼らはいずれも11〜15周目に最初のピットイン、25〜30周目に2回目のストップを行っている。44周の長丁場であるスパにおいて、このピットウインドウは「狭い」どころか、むしろ大きな開きがあると言える。バリエーションも豊富だった。マックス・フェルスタッペンは「ミディアム>ハード>ミディアム」で4位、カルロス・サインツは「ハード>ミディアム>ハード」で6位、セルジオ・ペレスは「ミディアム>ミディアム>ハード」の3ストップに加え、終盤2周のみソフトを履いてファステストラップを記録した。ダニエル・リカルドは「ソフト>ミディアム>ハード」で10位。唯一、戦略目的でソフトを履いたドライバーだった。一方で特異な存在がフェルナンド・アロンソ。13周目に唯一のピットストップを行い、「ミディアム>ハード」のワンストップで8位フィニッシュを果たしている。本来なら、アロンソが「ワンストップ勢2番手」となるはずだった。ジョージ・ラッセルがトップチェッカーを受けたのだ。ラッセルは6番グリッドからスタートし、1周目で1つ順位を上げ、10周目に5番手でピットイン。上位勢が2度目のストップに向かう中、順位を上げてトップに立った。メルセデスは中盤のスティント中に「タイヤがもつ」と判断し、ラッセルはそのまま走行を続ける。終盤にはチームメイトのハミルトンからのプレッシャーにも耐え、0.526秒差でチェッカーを受けた──が、最終的に車重が規定より1.5kg軽く、最低重量798kgを下回っていたことで失格処分となった。スチュワードにとっては明快な判断だったが、完璧に遂行された戦略的奇襲には疑いの余地がなかった。今年の最速戦略は?ピレリは今季、異なる試みとしてコンパウンド間に「ブリッジ」を導入している。昨年はC2・C3・C4の組み合わせだったが、今年はC1・C3・C4。これは、アグレッシブな2ストップと管理重視の1ストップの選択肢を両立させる狙いがあった。ただし、今週末のコンディションにより、設計通りの選択肢とは少し異なる状況に。路面温度、空気の清浄度、クリーンエアでの走行可否、そして他車の動き次第で、幅広い戦略オプションが考えられる。ピレリのシミュレーションによれば、2ストップが最速ルート──わずかに。最有力戦略は「ソフト>ミディアム>ミディアム」。しかもピットウインドウが広く、1回目は12〜18周目、2回目は25〜31周目と設定されている。昨年はソフトが敬遠されたが、2025年仕様のタイヤは若干耐久性が向上している。トップ10勢のもう1つの選択肢は?今回は“ウサギとカメ”の物語に近い。ただし、近年稀に見るほど速いカメと、油断皆無のウサギによるレースだ。1ストップと2ストップは非常に拮抗しており、中盤に入ってからの判断になる可能性もある。1ストップ案は16〜22周目にピットを行う構成だ。ピレリのモータースポーツディレクター、マリオ・イゾラは次のように述べる。「我々の試算では『ソフト>ミディアム>ミディアム』の2ストップの方が『ソフト>ミディアム』の1ストップよりも数秒速い。ただし、明日(日曜)は気温が下がり、それに伴いデグラも管理しやすくなるため、『ソフト>ミディアム』の1ストップも可能になる。高いマネジメント能力が求められるが、成立するだろう」後方グリッド勢の戦略は?スパでグリッドが混乱するのは珍しくない──通常はエンジンペナルティの影響だが、今年は純粋に実力差で混戦状態となっている。ルクレールとハミルトンの差は13グリッド、アレックス・アルボンとサインツで10グリッド、ラッセルとキミ・アントネッリでも12グリッドと大きく開いている。速さを秘めたマシンがグリッド全体に点在しており、金曜のスプリントではオーバーテイクが難しく見えたが、それは全員が同じタイヤ、同じ周回数で走行していたため。決勝ではタイヤ摩耗とタイム差によってレースが流動的になる。スパのロングストレートを考えれば、速いマシンが上位進出を狙うために奇策を打つ必要はない。純粋なペースで前に出られる可能性は十分にある。とはいえ、他と異なる戦略で勝負するなら、別のワンストップ案も存在する。「ミディアム>ハード」で17〜23周目にストップする構成だ。理論上はソフトを絡めた戦略より若干遅いが、すべては「明日どんなスパが現れるか」によって左右される。さて、天気は?ここはスパだ。つまり、天気がやらないことの方が少ない。今週末もすでに、快晴、小雨、豪雨、そしてF3セッションがヘリの飛行不能で延期──と、すべてが起きている。日曜に雪が降る可能性は低いが、それ以外はすべて起こり得る。土曜夜の時点での予報では、日曜は「非常に」雨の確率が高い──とはいえ、決勝レース中は乾きそうだとの見通しもある。午前中の降水確率は80%、午後早くには40%へと低下、15:00〜17:00のレース時間帯はやや小康状態を見せる予報だが、その後再び上昇し、撤収時にはスタッフ泣かせの天候になりそうだ。たとえレース中に降らなくとも、直前までの降雨は「ハードタイヤの使い勝手」に大きな影響を及ぼす。金曜の走行では好印象だったが、気温低下と濡れた路面によりグリップを失い、バルセロナでの悪夢を再現するリスクがある。
全文を読む