アイルトン・セナが1991年のF1ブラジルGPで悲願の初母国優勝を果たしたマシン「マクラーレン MP4/6-1(ホンダV12)」が、12月にRMサザビーズのオークションに出品される。セナにとって地元インテルラゴスでの勝利は特別な意味を持つものだった。デビュー以来10度目の挑戦で初めて母国の頂点に立ったこの一戦は、彼のキャリアの中でも最も感情的で象徴的な瞬間として知られる。
極限の肉体的限界でつかんだ歓喜のチェッカー当時すでに2度のF1ワールドチャンピオンだったセナは、世界的な人気を誇るレーサーとして母国ファンの熱狂の中にいた。しかし、レース終盤には豪雨とギヤボックスの故障という過酷な試練が襲う。6速ギヤのみが残された状態で、彼は71周を走り切るためにクラッチを滑らせながらコーナーを立ち上がり、減速にはブレーキだけを頼るという極めて繊細なコントロールを強いられた。強烈な痙攣と疲労の中、セナは当時最先端のマシン、ウィリアムズFW14・ルノーを駆るリカルド・パトレーゼをわずか2.9秒差で振り切って優勝。レース後は力尽きてステアリングを握れず、チームクルーの助けを借りて表彰台に立つほどだった。マクラーレン・ヘリテージから再び公の場へこのMP4/6-1はその後も複数のグランプリで使用され、セナは同年このマシンの後継シャシーで3度目、そして最後のタイトルを獲得。シーズン終了後、シャシーNo.1はマクラーレン・ヘリテージ・コレクションに収蔵され、2020年にプライベートセールで現オーナーの手に渡った。現オーナーの購入条件として「走行可能な状態での引き渡し」が求められ、イギリスのマクラーレン専門業者ポール・ランザンテ社によって整備を受けたうえで、今回の出品に備え再始動が確認されている。RMサザビーズは落札価格を1,200万〜1,500万ドル(約18億〜22億円)と見積もっており、入札は12月8日から11日にかけて行われる予定だ。セナ神話を象徴する「最後のホンダV12」このMP4/6は、マクラーレンとホンダの黄金時代を象徴する1台だ。自然吸気V12エンジンを搭載した最後のホンダF1パワーユニットであり、セナのフィジカルと精神力の極限を物語るマシンでもある。オークション市場では、マクラーレンMP4シリーズの実走可能個体が出品されるのは極めて稀であり、とりわけ「セナ初の母国優勝」という歴史的背景を持つこの車両は、世界中のコレクターにとって“伝説の象徴”として高値が付くことは確実だ。このマシンの落札結果は、今後の「F1ヘリテージ市場」における価格基準をも左右するとみられている。
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