エイドリアン・ニューウェイがアストンマーティン加入を決断したとき、ローレンス・ストロールが描いていたのは“F1最強布陣”だった。レッドブル離脱後のニューウェイ獲得は、巨額投資を続けるアストンマーティンにとって象徴的な出来事であり、チームをタイトル争いへ押し上げる最後のピースと見られていた。しかし、2026年シーズン開幕後に露呈した現実は、その理想像とは大きく異なっていた。AMR26はグリッド最後尾に沈み、ホンダ製パワーユニットの深刻な振動問題にも苦しめられている。
そんな中、イタリア『Motorsport IT』は、ニューウェイ自身がファクトリー内部の“混乱”に衝撃を受けていたと報じている。アストンマーティン内部で進んでいた人員流出ニューウェイはアストンマーティン加入時、チーム内部が大規模な人員再編の渦中にあるとは想定していなかったという。実際には新規加入よりも離脱者の方が多く、設計部門だけでも少なくとも7人が去ったとされる。さらに2024年末にはCEOのマーティン・ウィットマーシュも退任。チームはメルセデスとの長年の関係を終え、ホンダ時代への移行準備を進めていたが、その過程で組織内部の連携は十分に機能していなかったとみられている。特に問題視されているのが、ホンダとの関係構築だ。アンディ・コーウェルは2025年後半にニューウェイへチーム代表職を譲る過程で、日本メーカーとの関係を十分に管理できていなかったと指摘されている。“ソーラーパネル”発言の背景ニューウェイは開幕戦オーストラリアGPの記者会見で、ホンダ側の予想外の人員変更に不満を示していた。「最高のエンジニアたちはソーラーパネルか何かを作りに行ってしまった」この発言は当時、大きな波紋を呼んだが、その背景にはアストンマーティン内部の情報共有不足があった可能性も指摘されている。結果としてAMR26開発段階では深刻なエンジン振動が発覚。振動はニューウェイのシャシー設計だけでなくバッテリーにも悪影響を与え、ドライバーが走行中にステアリングから手を離さざるを得ない場面まで発生したとされる。“金を投じれば成功する”は通用しなかったローレンス・ストロールはニューウェイ、アンディ・コーウェル、さらにフェラーリからエンリコ・カルディレを招き入れることで、一気に“トップチーム文化”を構築できると考えていたとみられる。しかし現実には、世界的エンジニアを集めるだけでは組織は機能しない。現在のアストンマーティンはノーポイント、5回のリタイアという厳しい状況に陥っており、組織としての一貫性やビジョン不足の代償を払っているようにも見える。巨大ファクトリー、莫大な投資、トップ人材――。表面的な条件は揃っていても、F1では組織全体の統合と長期的な安定が不可欠だという現実を、アストンマーティンは痛感している段階なのかもしれない。
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