2026年F1レギュレーションを巡る物語の中心に、静かに、しかし確実に名前が浮かび上がってきているチームがある。アストンマーティンだ。その背景にいるのは、鎖ではなく製図板とノートを携えた“天才”。エイドリアン・ニューウェイである。フェラーリやレッドブルが新規則に対して堅実で直線的なアプローチを取っているとされる一方、イギリスからは、アストンマーティンがすでに次元の違う領域に足を踏み入れているのではないか、という噂が漏れ始めている。
ニューウェイ初の完全監修車 AMR26の衝撃シルバーストン周辺の関係者(Radio Paddock/技術関係筋)によれば、アストンマーティンAMR26――ニューウェイの思想が最初から最後まで反映された最初のマシン――のシミュレーターデータは「恐ろしい」という言葉で表現されている。特に注目されているのは、コーナリング中の空力性能だ。Zモードとされる条件下では、ダウンフォースのピークがライバル勢の想定を大きく超え、他チームが“夢の中ですら見ない”水準に達しているという。もしこれが事実なら、2026年のF1は、開幕前から勢力図が大きく傾いている可能性すらある。アクティブ・エアロに潜む“ニューウェイの解答”2026年F1レギュレーションは、可動ウイングによるアクティブ・エアロダイナミクスを導入し、フロアはフラット形状を義務付ける。FIAは極端なグラウンドエフェクトやポーパシングを排除するため、各部の寸法と挙動を厳格に制限した。だが、イギリス側の情報では、ニューウェイがフロアの柔軟性と新しい可動ウイング形状の相互作用に「抜け穴」を見出した可能性が囁かれている。多くのチームが電動比率50%の新ハイブリッドパワーユニットへの適応に注力するなか、アストンマーティンは機械的なフロアの密閉性に焦点を当てたとされる。サスペンションの動きを利用した受動的な仕組みによって、コーナリング中にフロアを路面へと近づけ、実質的にベンチュリ効果に近い状態を作り出す。違法ではない。ただ、ニューウェイらしい。1998年、2009年、そして2022年と同様に、レギュレーションの意図を逆手に取る発想だ。アストンマーティンの賭け 天才にすべてを託す決断アストンマーティンは、2026年に向けて明確な選択をした。組織全体の平均点を引き上げるのではなく、ひとりの天才にコンセプトの中核を委ねるという決断だ。その結果がAMR26であり、ニューウェイ初の“白紙からの一台”である。これは単なる戦力強化ではなく、チームの哲学そのものを賭けた挑戦と言っていい。“ブラウンGP再来”の可能性もしアストンマーティンが、2009年のブラウンGPのような存在になったらどうなるか。開幕戦から他を圧倒し、「ただレギュレーションを最も深く理解していた」という理由だけで、シーズンの主導権を握る。そんなシナリオが、決して空想とは言い切れない段階に来ている。1月、AMR26のフロア周辺やフロントウイングのエンドプレートに“奇妙な解決策”が見えたとき、その答えはほぼ出るだろう。2026年F1の主役は、すでに決まりつつあるのかもしれない。アストンマーティンと、67歳の英国人が描いた設計図が、その運命を左右する。