アストンマーティンF1チーム代表兼CEOのアンディ・コーウェルは、2026年からのホンダとのワークス体制を「解放的(liberating)」と表現し、その背景にある技術的変化や協働プロセスを語った。メルセデスのカスタマーチームからホンダのワークスチームへと移行するこの転換は、チーム運営の根幹を大きく変えることになるという。2025年限りでホンダとレッドブルの提携が終了し、レッドブルはフォードとの「Red Bull Powertrains」プロジェクトに移行。
一方でホンダはアストンマーティンと組み、ワークスチーム体制で新時代に臨む。カスタマーチームからの脱却:「ブラックボックス」が消えるコーウェルは「カスタマーチームでは“編集できないブラックボックス”を扱うようなものだった」と語り、ホンダとの新しい関係によって得られる自由度を強調した。「ワークスチームになると、膨大なシステムについてホンダのエンジニアたちとオープンに話し合える。我々の共通言語は“ラップタイム”だ。質量、放熱性能、燃料消費、重心、空力機会──すべてをラップタイムに換算して議論する」こうした連携により、エンジンパッケージが空力面に与える影響や、冷却システム設計の最適化など、マシン全体のコンセプトを早い段階で擦り合わせることが可能になる。「エンジニアにとって本当に“解放的”なんだ」とコーウェルは述べた。さくらの施設との連携とギアボックス開発コーウェルによれば、2026年からアストンマーティンはメルセデス製ではなく自社製ギアボックスを使用する。「シルバーストンとさくらの両拠点で試作ギアボックスを何カ月も走らせてきた。両エンジニアチームの協力関係は見事だ。データのやり取りも完璧で、シルバーストンの技術者がリアルタイムでさくらのダイナモテストの様子を見られる仕組みになっている」これにより、パワーユニットとシャシーの融合開発が前例のないレベルで進行しているという。ホンダの“情熱”とエンジニア文化への共鳴コーウェルは2024年と2025年にホンダの施設を訪問した際、「飢え、創造性、そして情熱」に感銘を受けたと語る。「ホンダはエンジニア主導の企業で、モータースポーツが心臓部にある。単にエンジンを作るだけでなく、ラップタイム全体への貢献を考えている。そこが他とは違う」メルセデスのカスタマー時代には制約が多く、マシン設計をエンジンに合わせて妥協せざるを得なかったが、ホンダとは「最初から共同設計できる」。これこそがワークス化の最大の利点だという。ニューウェイがもたらす相乗効果さらにコーウェルは、エイドリアン・ニューウェイの存在がホンダとの関係構築を後押ししていると明かした。「エイドリアンはホンダをよく知り、彼らを理解し、尊敬している。それが会話をスムーズにし、技術的な議論をすぐに深いレベルへ導いてくれる」彼自身がメルセデスHPPの元トップエンジニアであることも相まって、アストンマーティンとホンダの協力体制は強固な基盤を築きつつある。未知数の2026年シーズンへ:「技術主導チーム」の挑戦コーウェルは「まだ他チームとの比較はできないが、我々は性能開発、効率向上、軽量化、信頼性の高いシステムづくりに向けて全力で取り組んでいる」と述べる。「ホンダの方法論や情熱、目標への執念は本当に印象的だ。2026年にそれがどう実を結ぶか、楽しみでならない」アストンマーティンF1×ホンダの“解放的”パートナーシップとはメルセデス依存のカスタマー体制から脱却し、ホンダと共に自らの手でマシンを作り上げる──。アストンマーティンが目指すのは、単なるパワーユニット供給契約ではなく、真の意味での「共創」だ。その象徴的な言葉が、アンディ・コーウェルの「liberating(解放的)」という一言に凝縮されている。
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