穏やかな性格で知られるアレックス・アルボンだが、最近ではウィリアムズの戦略判断に対する率直な無線メッセージでF1の中でも屈指の"直言ドライバー"としての評判が定着しつつある。この傾向はカナダGPでも再び現れた。ただし、状況は見た目ほど対立的なものではなかった。
「なんで僕の言うことを聞いてくれないのか分からない」と問いかけたり、数周後のピットインの指示に異を唱えたりする無線が、アルボンが第1スティントの終盤に中団で順位を落としていく中で国際映像に乗った。これらの無線は注目を集めるものだった。「戦略的に僕の無線だけを選んで流してる気がする」とアルボンはその後、半ば冗談めかして語った。「この戦略は間違ってるって毎周言ってたんだけど、あの人たちは特定のタイミングになるまでその無線を使わないんだ」無線の短い抜粋によくあるように、文脈が欠けると実際よりも対立的に見えてしまう。ウィリアムズが再建に向けて進み、戦うべき対象が増えてきたことで、アルボンがより強くフラストレーションを表すようになってきたのは確かだが、それは大抵の場合正当な理由がある。この無線を世界中の映像に使ったという点よりも奇妙だったのは、その状況をウィリアムズのチーム代表ジェームス・ボウルズがSky Sports F1の中継でどのように要約したかという点だ。「アレックスについては最初のチャンスを逃してしまった時点で、もう長く引っ張るしかなくなる。それは彼には見えていない」とボウルズは語った。「彼には、左右から抜かれていってすごく苦しいっていう感覚しかないんだ」しかし、アルボンにはそれはちゃんと見えていた。実際、彼のフラストレーションは三段階にわたって表出している。彼は、ミディアムタイヤ勢の中で他のドライバーがピットに入ることを予測し、その前にピットインしてポジションを確保したいと考えていたが、ウィリアムズは彼をコースに留めた。その判断によって、先にピットに入ったミディアム勢にはアンダーカットされ、ハードタイヤを履いたマシンにも追いつかれはじめ、アルボンは順位を落としていった。そしてようやくウィリアムズがピットインの指示を出すと、今度はアルボンがすかさず「今は入らない、今はボックスしないで!」と主張した。彼の言葉を借りれば「そこまで引っ張っておいて今ピットインなんてできない」という状況だった。アルボンは、最適なピットインのタイミングを逃し、攻めることもできなくなってしまったと分かっていた。ウィリアムズが当初の戦略に固執していたら、早めに入った他車の後ろになり、タイヤのライフ差も小さく、追い上げることもできず、さらにはもう1回ピットインせざるを得ない展開になっていた。結果的に、アルボンは最後尾でコースに戻ることになった。古いミディアムタイヤで滑りまくっていたために大きく時間を失っていたのだから、それも当然だった。「あれで僕たちのレースは終わった」とアルボンは悔しさをにじませた。そして、エンジントラブルが悪化し、リタイアを余儀なくされた。とはいえ、レース後のアルボンはチームを責めるような言葉を口にしなかった。これもまた、よくあることだ。無線の怒りやフラストレーションは、その瞬間には激しく聞こえるが、意図やドライバーがどれだけ状況を把握しているかが伝わっていないと実際よりも厳しく受け取られてしまう。ドライバーが冷静になって、自らの意図を説明できるようになれば、その動機はより明確になる。そしてアルボンは「全部がチームのせいというわけじゃない」と語った。レースメディア『The Race』から「またしても戦略面での判断ミスにフラストレーションを感じているのか」と問われた際、アルボンはこう答えた。「正直言って、今年は戦略面では本当にうまくやれてると思ってる。常に正しい判断をしてきたと思う」「ドライでもミックスコンディションでも、イモラでの1ストップ成功もそうだし、メルボルンやマイアミでも、タイヤの選択含めて正しい決断ができていた」「だからチームとしては、そういう部分は強みなんだ。今回はちょっと詰まってしまったんだと思う。1ストップを成立させたかったけど、たぶん序盤で順位を落とした分を何とか取り戻そうという焦りもあったと思う」「ある意味では、僕たちは速さもあったから、例えばアルピーヌみたいに皆を抑えていた相手に対して1ストップでデグラデーションを抑えれば逆転できると考えていたんだ」「でも、このコースではグレイニングがすべてで、グレイニングが起きたら速さでは取り返せない。今回はFP2と違って、レースではグレイニングの出方がずっと遅かったから延ばせると思ったけど、実際に始まったら、すぐにピットインするしかなかった」アルボンがチームに対して寛容な態度を見せた理由の一部には、「自分の1周目が良くなかった」こともあるかもしれない。フランコ・コラピントの後ろに下がり、その後の再パスで強引にアウト側から仕掛けた結果、押し出されるようにポジションを失った。「もっと良い仕事をしないといけない」とアルボンは認めた。リタイア自体はポイント圏外だったため痛手とは言えないが、それでも問題はあった。アルボンによれば、原因はマルチカー・トレインの中でクリーンで冷えた空気をクーリングシステムにうまく取り込めなかったことだった。「これは今回だけじゃない。他のレースでも少し危うい場面があったけど、今回はダメだった」とアルボンは語っており、ウィリアムズとしても理解を深める必要がある課題だ。こうして多くの要素が重なり、今回のアルボンの週末は完璧にはほど遠いものとなった。開幕から数戦のようなクリーンな週末を過ごせていないことが、戦略面での判断ミス以上に大きな失望につながっている。「今週末はチャンスを逃してしまったと思う」とアルボンは言う。「速さはあったし、予選でも逃してしまった。タイヤの理解をもっと深めないといけないし、まだ風への感度もある。そこも今回少し出た」「レースではすごく強かった。間違いなくトップ10に入れたはずなのに、それを逃してしまったのは本当に悔しい」
全文を読む