ウィリアムズF1は、2022年末にはコンストラクターズ最下位に沈み、長年にわたる構造的停滞とリソース不足に苦しんでいた。しかし2025年シーズン、その姿は一変する。同じレギュレーションサイクルの中で5位に浮上し、表彰台争いに絡む存在へと変貌を遂げた。その変革の中心にいたのが、2023年1月にチーム代表へ就任したジェームス・ボウルズだ。
彼は3年という時間をかけ、ウィリアムズが抱えてきた「過去」を断ち切り、施設、プロセス、人材に至るまで抜本的な改革を断行した。結果以上に重要なのは、チームが明確な方向性と現実的な再建ビジョンを取り戻したことにある。2022年末、ウィリアムズはF1の最下位に沈み、わずか8ポイントでシーズンを終えていた。中団グループの他チームとは大きな差があり、かつての名門はもはや自らの名に見合わない存在となっていた。長年積み重なった構造的な遅れ、限られた資金、競争力は例外的な好条件に左右されるのみという厳しい現実があった。それから3年後、同じレギュレーションサイクルの終盤となった2025年、ウィリアムズは137ポイントを獲得してコンストラクターズランキング5位でシーズンを終えた。カルロス・サインツJr.による2度の表彰台に加え、オースティンのスプリントでは3位も記録。直接のライバルに対して明確な差を築き、より大きな資金力や最新のインフラを備えるチームをも上回った。この上昇は偶然ではなく、計画的な再建の結果だった。その立役者がボウルズである。2023年1月13日、グローブのチームが彼の就任を発表した瞬間から、ウィリアムズは表面的な立て直しではなく、組織の根幹に踏み込む変革に着手した。ボウルズはメルセデスF1から加入し、トップチームの内部で培った知識を持ち込んだ。プロセス、責任分担、組織構造の重要性を熟知していた彼は、ウィリアムズに足りないものを即座に見抜いた。必要だったのは人事の入れ替えではなく、考え方と働き方そのものの刷新だった。象徴的なのが、部品管理システムの近代化だ。2024年までウィリアムズは、約2万点に及ぶコンポーネントを巨大なExcelシートで管理していた。素材、スペアパーツ、部品のライフサイクル、生産優先度を一元的に把握するには極めて非効率な体制だった。ボウルズはここに最初のメスを入れ、ERP、MRP、PLMといった現代的な管理システムを導入した。これにより、部品の所在、使用素材、製造状況、マシン全体のライフサイクルを常に可視化できる環境が整えられた。この改革は、後に彼が最重要テーマとして掲げるCapEx(設備投資予算)拡大の土台ともなった。CapExはコストキャップの枠外で、インフラ改善に充てることができる特別な予算だ。ボウルズは、これを拡大しなければ長年蓄積された設備面の遅れを埋めることはできないと訴え続けた。その結果、ウィリアムズは新たなシミュレーターを含む重要な設備投資を実現する。再建を目指すチームにとって、これは不可欠な一歩だった。FIAが導入した段階的な制度も追い風となった。インフラが遅れたチームほど多くの投資余地を与える仕組みの下で、ウィリアムズは最も恩恵を受ける立場にあった。ボウルズはこの制度を最大限に活用し、弱点を規則上のアドバンテージへと変えた。技術と並行して、彼が力を注いだのが人材だった。チーム規模を拡大し、リーダーシップや専門性が不足していた分野に経験豊富なエンジニアを配置。技術者が再び将来性のあるプロジェクトに関われるという確信を持てる環境を整えた。ウィリアムズはまだ道半ばではあるが、確かな選択肢として認識される存在へと変わっていった。この認識の変化は、ドライバー市場にも影響を与えた。2024年の移籍市場で注目を集めたサインツが、将来の舞台としてウィリアムズを選んだことは、その象徴的な出来事だった。メルセデス製パワーユニットの存在は要因のひとつだが、それだけでは決断の理由を説明できない。短中期的に結果を出せる現実的なプロジェクトだと判断したからこその選択だった。2025年シーズンは、その判断が正しかったことを示している。わずか3年前には想像もできなかった表彰台、そして中団での明確な優位性。ウィリアムズは好条件を待つチームではなく、自ら結果を引き寄せるチームへと変わった。3年を経たいま、ボウルズの最大の功績は単なる順位やポイントではない。ウィリアムズは、失われていたアイデンティティと明確な技術的方向性を取り戻した。約20年にわたり手付かずだった領域にまで踏み込んだこの改革は、進化ではなく再建だった。ここから先、その成果がどこまで結実するのか。ウィリアムズの次の章は、すでに始まっている。
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