ドイツのモータースポーツ連盟は、DMSBパーミット・ノルドシュライフェ(DPN)のアクセス規定を変更し、史上初めてシムレースを考慮に入れることを決定した。背景には、マックス・フェルスタッペンが9月に示した驚異的なパフォーマンスがある。DPNレベルBでは、候補者はニュルブルクリンク耐久シリーズ(NLS)の公式シムレース大会への参加をカウントできるようになる。この調整はパーミットBにのみ適用される。
より高速クラス(SP9 GT3など)に参戦するためのパーミットAについても要件が緩和された。これまで2結果・14周が必要だったところ、今後は1結果と8周で十分となる。さらに最低走行時間(レース全体の20%以上)の条件も完全に撤廃された。これは2010年代と比べ大きな要件緩和となる。当時はパーセンタイル基準内での2結果提出と18周走行が義務で、安全性向上に寄与した一方、ドライバーがパーミット取得待ちとなり、24時間レースでチームがドライバー変更を強いられるケースもあった。このシステムの代表的な批判者のひとりがバレンティーノ・ロッシだ。MotoGPレジェンドであるロッシはWEC最終戦バーレーンで「状況さえ整えばニュル24時間に出たい」と語っている。「そう、計画にはある。ニュルブルクリンクは走りたい。でもニュルでレースをするには、他のレースを通じてパーミットを取得しないといけない。来年その時間が取れるか分からない」とAutosportに語った。シムレースはあくまでパーミットBへの“3つ目の選択肢”最も大きく、そして衝撃的な変更は、国際Dライセンス以上を持つドライバーが、バーチャルレースへの参加をパーミット取得に活用できるようになった点だ。冬季に開催されるデジタルNLS(DNLS)4ラウンドのうち3戦をペナルティなしで完走すれば、これまでRCN(NLSの2つ下位カテゴリ)出走の部分的代替として使用できるようになる。シムレースはあくまで追加の1ルートで、既存の選択肢も維持される。選択肢は以下の通り:■ フェルスタッペンがNLS7参戦前に行った標準DPN-Bコースを修了■ ドライバーチェンジありで2回のRCNレース完走、または単独ドライバーで1回完走■ 新規:ドライバーチェンジありのRCN1戦+ペナルティなしのDNLS3戦ナショナルAライセンス保持者は新オプションの対象外で、これまで通りRCNを3戦完走する必要がある。フェルスタッペンの影響この決断の重要な要因となったのが、エミール・フライのフェラーリ296 GT3で出場したフェルスタッペンのNLS9での突出した走りだ。マルチクラス実戦経験がなかったにもかかわらず、長年のマルチクラス・シムレース経験により、渋滞処理で驚異的な成熟を見せた。「DNLSが2020年に始まって以来、シムレースは娯楽以上の存在で、極めて正確に現実を再現していることを我々は知っていた」と語るのは、NLSレースコントロールとDNLSレースディレクション両方に関わるVLNスポーティングディレクターのクリスティアン・フォアマン。「最近のフェルスタッペンのNLS参戦で、バーチャルでの準備がいかに重要かが明確になった。彼の秘密はシムレースだ。フェルスタッペンはiRacingで数え切れないほどのニュル走行を重ね、DNLSイベントもこなしてきた。すぐに適応したのは驚きではない」DMSBスポーツコーディネーターのロビン・シュトリツェクもこう述べる。「NLS組織に加え、PorscheはPEETNを通じて関与し、実際のNLSのマーシャルや関係者も参加している。強いメディア露出も加わり、現実とデジタルの独自の結び付きがある。新しいパーミットB規定は、このつながりをさらに補強するものだ」シムレースを公的ライセンス取得の一手段として認める決定は、国際モータースポーツでは前例がない。FIAはこの動向を注意深く見守ることになるだろう。シムレースを通じたライセンス条件クリアは、将来的に有力なモデルとなる可能性がある。フェルスタッペンが“シムレースの価値”を実証した瞬間今回の規則変更は、単なる緩和措置ではなく、現代モータースポーツにおけるシムレースの地位向上を象徴する出来事だ。特に重要なのは以下の3点:■ トップドライバーがシムレースの信頼性を証明した事例が制度を動かしたフェルスタッペンのNLS参戦は、実戦経験ゼロでも「マルチクラス渋滞の捌き方」や「レースクラフト」をシムから習得できることを示した。■ 安全性とアクセス性のバランス転換これまで過剰に厳しかった部分を見直すことで、若手・外国人ドライバーの参入ハードルを下げつつ、シミュレーター準備による安全向上も担保する。■ 国際モータースポーツ界への波及効果は必至特にFIAは“2026年F1レギュレーションでのシミュレーション技術の拡大”を進めている段階であり、シムレースのライセンス利用が他カテゴリーへ広がる可能性もある。今回のドイツASNの決断は、「シムレース=準公式トレーニング」から「シムレース=公的に認められた競技」への転換点といえる。
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