マックス・フェルスタッペン(レッドブル・レーシング)は、もはやライバルに対して心理戦を仕掛ける必要はないと語りつつも、マクラーレン勢とのタイトル争いが2021年のルイス・ハミルトンとの戦いを彷彿とさせるほど緊張感を帯びてきていると認めた。メキシコGPの会場でオランダ紙『De Limburger』の取材に応じたフェルスタッペンは、初タイトル争いを戦った当時との心境の違いを振り返った。
「当時はそういう“ゲーム”をしていたね。でももうやる必要はない」と4度のF1世界王者は語った。「当時はまだタイトルを獲ったことがなかった。でも今は何度も経験しているし、彼ら(ピアストリとノリス)はそうじゃない。この段階でタイトルを持っていないドライバーのほうが、どうしても緊張するものなんだ」「もう証明する必要はない」──レースへの情熱は変わらずフェルスタッペンは、今季の巻き返し劇は他人への証明ではないと強調する。「人がどう思うかなんて気にしていない」と彼は語った。「でも時々、F1が単にマシンだけのスポーツじゃないってことを見せるのは悪くない。勝つにはいいクルマが必要だけど、常に最速じゃなくても勝てる」「このタイトル争いでは僕に失うものは何もない。全力で攻めるだけだ」ただし今季唯一の後悔は、バルセロナでのジョージ・ラッセルとの接触だという。「あの瞬間はよくなかったけど、もうどうにもならない」とフェルスタッペンは振り返る。「でも同時に、それが起きたのは良いことだったのかもしれない。なぜああなったか忘れちゃいけない。僕はフラストレーションを感じていた。つまり、それだけ本気だったということだ。どうでもよければ、『抜けばいいじゃん』で終わってた」「僕は常にモチベーションを持っている」──マルコ発言への反論「だからこそ、ヘルムート(マルコ)が“僕はF1に興味を失っている”と言ったことには賛成できない。僕は常にやる気がある。マシンに乗れば全力を尽くす。そうでなければ他の誰かに勝たれてしまう。中途半端な気持ちでF1をやることなんてできない」メディアとの距離と「変わらない自分」近年、発言が慎重になったとの指摘についてはこう答えた。「F1に来てもう11年くらい経つ。いちいち全部説明する気にならないこともある。まず、すべてが他人の知るべきこととは限らないし、時には余計なことを言わないほうがいい。今の世の中、F1に限らず、本当のこととフェイクの区別が難しいからね」公のイメージが変わったと言われても、本人は「自分は変わっていない」と断言する。「2021年の頃と今とで僕自身は何も変わっていない。人々は一度作り上げたイメージを持ち続けるだけだ。人の目を気にして自分を変えるつもりはない。自分に正直でいれば、時間が経てば本当の自分が伝わる。誰かのことを最初は嫌なやつだと思っても、1時間話してみたら良いやつだったってことがあるだろ。それと同じさ」ローラン・メキース体制とレッドブルの再生クリスチャン・ホーナー退任後、ローラン・メキース体制となったレッドブルの復調についてもフェルスタッペンは言及した。「ローランがチーム代表になってから、毎週木曜日に話している。クルマのことだけじゃなくて、いろんなことをね。たぶん今は僕の意見を聞いてくれる人が増えたし、コミュニケーションも良くなった。でも影響を与えているのはチーム全体だ。セットアップの考え方に新しい哲学があるし、モンツァ以降の新しいフロアもすごく効いている」ホーナー退任がなければこの改善は起きなかったのかと問われると、フェルスタッペンはこう答えた。「それは誰にも分からない。でも今の状況にはとても満足している。ローランとも、チームとも、そしてオーストリアやタイの本部の皆ともね。みんなが一つにまとまっている。大きなブランドにとって、それはとても大事なことだ」「今はサーキットに向かう時、よりリラックスしているし、もちろんマシンが競争力を取り戻したのも大きい」「プレッシャーをかけるのは悪くない」──逆転への信念最後に、マクラーレン勢が彼の追い上げを恐れるべきかと問われると、フェルスタッペンは笑みを浮かべた。「少しくらいプレッシャーをかけるのはいいことだろ?」と語り、こう続けた。「もしタイトルを獲れたら最高だし、ダメでも泣くつもりはない。最初の14戦はひどかったのは明らかだ。でも今こうしてまだタイトル争いに残っていること自体が、すでに勝利なんだ」冷静さと闘志を両立する“成熟した王者”フェルスタッペンの発言からは、2021年当時の攻撃的な姿勢とは異なる「成熟した強さ」が感じられる。彼は心理戦を必要としない自信を持ち、同時にチームとの信頼関係の中で冷静に戦況を立て直している。一方で、「全力で攻める」「フラストレーションを感じるからこそ戦う」と語るその言葉には、依然として燃える闘志が宿る。マクラーレン勢にとって、彼の“プレッシャー”は単なる口先ではなく、確かな脅威になりつつある。