ストフェル・バンドーンは今シーズンF1グリッドにはいないが、アストンマーティンの2026年プロジェクトにおいて重要な役割を担っている。さらに彼は2026年の世界耐久選手権(WEC)でプジョーに復帰することも決まった。アロンソ&ストロールのサポート役としてF1活動を続けながら、WECハイパーカープログラムにも関わるという二重任務が動き出している。
ベルギー出身のリザーブドライバーであるバンドーンは、チームが大規模なレギュレーション変更と新しいホンダ製パワーユニットへの適応を進める中、フォーミュラEとWECを並行していた従来のスケジュールから、F1ガレージおよびシミュレーターでより積極的に関与する役割へと焦点を移している。「今はフォーミュラEが終了したので、アストンマーティンでの役割により多くの時間を割けるようになった」とバンドーンはSpeedcafeに語った。「今シーズン後半はより多くのレースに参加しているし、イベント前には基本的にシミュレーターで多くの時間を過ごしている。そして、進行中の開発もあって、徐々に2026年に向けたフォーカスを高めていっている」バンドーンのレースキャリアは今も活発で、複数のカテゴリーで成功を収めている。2018年から2025年までの7シーズンにわたるフォーミュラEでは103戦に出場し、4勝・17回の表彰台・8回のポールポジションを記録。2021-22シーズンにはメルセデスでチャンピオンを獲得し、2019-20シーズンにはアントニオ・フェリックス・ダ・コスタに次ぐランキング2位を獲得した。2024/25シーズンはマセラティから参戦し、東京での勝利がGEN3エボ時代におけるチーム唯一の勝利となった。マセラティが来季シトロエンに置き換わるのに伴い、バンドーンはフォーミュラEのシーズン12において、トム・ディルマンとともにジャガーTCSレーシングのリザーブ兼シミュレータードライバーに就任する。一方で、WECにおける2026年のフルタイムシートは、いわゆる“シリーシーズン”の展開により不透明となっていた。ジェネシス・マグマ・レーシングへの移籍計画はフォーミュラEの予定と重なり破談となり、当初彼の離脱を見込んでいたプジョーが再び契約を更新。これにより、2023年から所属するプジョー9X8ハイパーカーでの参戦を2026年も継続することになった。この復帰により、バンドーンは長年プジョーに在籍してきたジャン=エリック・ベルニュを置き換えることになる。ベルニュは開発ドライバーとして新たな役割に移行し、9X8に代わる新プロトタイプ構築計画に関与する。この体制は1年間限定で、ベルニュは2027年に再びレースドライバーとして復帰する予定だ。35歳のベルニュは引き続きフォーミュラEにも参戦し、名称変更された新チーム「シトロエン(旧DSペンスキー)」で走る。この交代は、WEC 2025年シーズン最終戦バーレーン8時間レースを前に火曜日に公式発表された。同レースではテオ・プルシェールが#94プジョー9X8でハイパーカーデビューを果たし、マルテ・ヤコブセン、ロイック・デュバルとともに出走する。来季のドライバーラインナップ詳細は未発表だが、プジョーは2026年体制としてデュバル、ヤコブセン、ポール・ディ・レスタ、バンドーンの4名を継続し、プルシェールとニック・キャシディを新たに加えることを確認した。一方、ミッケル・イェンセンは、バーレーン後にチームを離脱し、2027年のマクラーレンLMDhプログラムに加わる可能性がある。バンドーンはF1側でも依然としてアストンマーティンの活動に深く関与しており、レース前のミーティングやデブリーフへの参加、シミュレーターでのセットアップ調整などを通じて、アロンソとストロールをサポートしている。「今大事なのは、強力なチーム体制を築くことだと思う」とバンドーンは語る。「今のチームには非常に有能な人たちが揃っていて、近いうちにその成果が出始めることを願っている」元マクラーレンのチームメイト、フェルナンド・アロンソとの再共演についてはこう話す。「彼はいまでも同じモチベーションを持っていると思う。チームとの関わり方のアプローチは少し変わったと思うし、経験も増えた分、いろんな状況への対処の仕方も変わっている。以前より少し違う印象を受けるね」また、ランス・ストロールの努力を称え、互いに良い関係を築いていると明かした。「僕らは週末を通じてよく話す。同世代だし、F1を始めた時期も近いから、共通点が多い。彼のクルマでのフィーリングについて話すこともあるし、そこに自分の意見を加えたりもする。ランスはとても努力家だよ。あとはクルマをもう少し速くするだけで、近いうちに結果が出るはずだ」2026年の新レギュレーションについては慎重な楽観を示した。「正直なところ、現時点では誰にとっても未知数だと思う。クルマはこれまでとかなり違う感触になるだろうし、レギュレーション自体も大きく変わる。だからグリッド全体で大きなサプライズがあるかもしれない」「とはいえ、F1で一晩にして何かが変わることはない。時間が必要だ。でもこの数カ月間でチームに加わった人たちを見れば、方向性は間違っていないと思う。その成果が見え始めることを期待している」アストンマーティンとプジョーの“二足のわらじ”が意味するもの2026年に向けて、ストフェル・バンドーンはアストンマーティンF1とプジョーWECの両プロジェクトに関与する数少ないドライバーとなる。ホンダとのワークス体制を強化するアストンマーティンにおいて、シミュレーターでの技術支援やセットアップの最適化を担う一方、耐久レースではステランティス傘下での開発ドライバーとして活動を続ける構図だ。この二重任務は、ドライバーとしての柔軟性と技術的理解力の高さを象徴しており、特に2026年の「新PU時代」におけるマルチメーカーの連携強化という潮流にも合致している。また、フォーミュラEから撤退した今、F1とWECの橋渡し役としての存在感はさらに大きくなるだろう。アストンマーティンの開発体制が整う2026年、そしてプジョーが新プロトタイプを見据える同年。ストフェル・バンドーンは、再び“技術と経験の交差点”に立つ存在となる。