トロ・ロッソの2008年F1マシン『STR3』は、親チームのレッドブルよりも先に勝利を収めた“カスタマーカー”であり、トロ・ロッソというチーム名で唯一勝利を挙げたマシンとなった。当初、2008年のコンコルド協定からからカスタマーカー(カスタマーシャシー)は解禁される予定だった。しかし、ライバルチームからの反発により、結局はカスタマーカーでの参戦は認められず、2010年以降は独自にマシンを開発しなければならなくなった。
当時、レッドブルはレッドブル・テクノロジーからレッドブル・レーシングとトロロッソの2チームに供給することで「コンストラクター間の取引禁止」という文面を回避していた。そのため、トロ・ロッソ STR3は、エイドリアン・ニューウェイが、親チームであるレッドブル RB4のためにデザインしたものが流用されており、レッドブルの開発が優先されたため、シーズン開幕時は昨年マシンをレギュレーションに合わせた改良が加えられたSTR2Bで戦い、STR3がデビューしたのは第6戦モナコGPからとなった。見た目はほぼレッドブル RB4だった。フロントウイングには2007年にマクラーレンが導入して流行となった“ブリッジウイング”が搭載され、RB4にも搭載された“シャークフィン”も搭載された。ただ、レッドブルはルノーのF1エンジンを搭載していたのに対し、トロ・ロッソはフェラーリのF1エンジンを搭載しており、ギアボックスやエンジンの補機類はSTR3専用に製造され、そのエリアの空力設計はSTR3独自のものとなった。セバスチャン・ベッテルとセバスチャン・ブルデーを起用した2008年。序盤戦はSTR2Bでリタイアの続いていたが、STR3の導入により状況が一転した。第14戦イタリアGPでは、雨のコンディションでセバスチャン・ベッテルがポールポジションを獲得。決勝でもポールトゥーウィンを果たして、ベッテル自身とトロ・ロッソの前身であるミナルディを含め、初ポールポジション・初表彰台・初優勝であり、親チームでのレッドブルよりも先に勝利を収めることになった。セバスチャン・ベッテルは、21歳72日はF1史上最年少ポールポジション、21歳73日は当時の最年少優勝・最年少表彰台および最年少ポール・トゥ・ウィンとなった。さらに“初表彰台が初優勝”は1979年第8戦フランスGPでのジャン=ピエール・ジャブイーユ以来であり、イタリアGPでフェラーリ以外のイタリアンチームが優勝したのは、1957年にマセラティ250Fを駆ったスターリング・モス以来、半世紀ぶりと記録づくめの歴史的な勝利となった。このシーズン、トロ・ロッソは11回の入賞を果たして39ポイントを獲得し、ランキング6位で終えた。また、トロ・ロッソ STR3は、佐藤琢磨もドライブしている。2008年シーズン途中でF1シートを失った佐藤琢磨だが、トロ・ロッソからテストのチャンスを与えられ、9月のヘレステストでは、前戦イタリアGPの優勝マシンしたばかりのSTR3でテストを実施。午後から雨が降り、午前中のみのテストとなったが安定したパフォーマンスを見せる。「クルマからやってくる情報量が違う。初めてF1マシンに乗ったような気分になった」と語った。その後、11月のバルセロナ、12月のヘレスに再び招かれ、スリックタイヤと2009年を想定したエアロで走行。ヘレスではトップタイムを記録する印象的なパフォーマンスを披露したが、シートを得ることはできなかった。