レッドブル・レーシングは2025年型F1マシン「RB21」の設計において、“運転不能になる恐れがある”という内部からの警告を無視していた。Sky SportsのF1コメンテーター、デイビッド・クロフトがイギリスGPの現場で明かしたこの証言は、現在チームが陥っている深刻な不振の根幹に迫るものだ。
イギリスGPを終えて、マックス・フェルスタッペンの5年連続F1ワールドチャンピオンへの希望は大きく後退。マクラーレンのオスカー・ピアストリに69ポイントの大差をつけられ、コンストラクターズランキングでもレッドブルは4位に転落。首位マクラーレンとは288ポイントもの開きがある。今季レッドブルは、RB21のバランスとハンドリングの問題に苦しんでおり、フェルスタッペンが2勝を挙げているものの、3戦目から起用された角田裕毅は依然としてマシンへの適応に苦戦を強いられている。「最速設計」は“ドライバー無視”だったクロフトはSky Sports F1ポッドキャストで次のように語った。「ある人物がこう教えてくれた。レッドブルは、理論上データが示す“可能な限り最速”のマシンを設計したが、実際には“運転不能”な代物になってしまったと。そして設計段階でそのリスクについては警告されていたのに、それを無視したんだ」RB21は、その理論的な速さを証明するかのように一部のサーキットでは速さを見せるが、予測不能な挙動や極端にナローなセットアップ領域が原因で、安定したパフォーマンスがまったく発揮できていない。フェルスタッペンは開幕から2勝を挙げているものの、それ以外のレースではマシンとの格闘を強いられている。イギリスGPではウェットとドライが目まぐるしく入れ替わる難コンディションの中でスピンを喫したが、そこから粘り強く巻き返して5位でフィニッシュ。クロフトは「フェアプレーだ。あの状況でも諦めずに走り切ったマックスは立派だった」と称賛しつつ、「そもそもこんなに苦しむようなマシンに乗らされていること自体がおかしい」と痛烈に批判した。角田裕毅も苦戦、“代役”から脱却できずRB21のピーキーな特性は、フェルスタッペンだけでなく、3戦目から起用された角田裕毅にも大きな影響を及ぼしている。角田裕毅はリアム・ローソンの後任としてRB21をドライブしているが、ここまで10戦中7戦でノーポイント。最新のイギリスGPでは唯一周回遅れとなり、15位完走という屈辱的な成績に終わった。「裕毅については、どこに希望を見出せばいいのか分からない。シーズン終了までは乗り続けるだろうし、誰もが彼にもっと活躍してほしいと願っている」とクロフトは述べている。「でも、これだけのレース数をこなしてもいまだに適応できないのは、やはりマシン側にも問題があると言わざるを得ない」ニューウェイ不在がもたらした“歪み”RB21の不振と並行して注目を集めているのが、エイドリアン・ニューウェイの離脱による“設計思想の喪失”である。「レッドブルはニューウェイの存在を軽視していたのかもしれない。クリスチャン・ホーナーは『それほどでもない』と言っていたが、実際には彼がいなくなった影響を思っていた以上に受けている可能性がある」とクロフトは指摘する。ニューウェイは今季からアストンマーティンに移籍。レッドブルは技術部門の象徴であった彼を失った直後に、今度は20年にわたりチームを率いてきたホーナーを解任。短期間に2人の“屋台骨”を失った影響が、RB21の開発方向性に混乱をもたらしたのは間違いない。フェルスタッペン離脱の可能性も浮上こうしたチームの混乱は、フェルスタッペンの将来にも影を落としている。彼の契約は2028年末までとされているが、パフォーマンス条項を満たさなければ、今季終了時点での解除が可能との見方が広まっており、メルセデスへの移籍説も再燃している。イギリスGP後のインタビューで、フェルスタッペンは次のように語っている。「もし全員がやるべきことを分かっていたら、みんなが勝てるはず。F1はそういう世界じゃない。今の僕らは理想的な状態じゃないけど、それでもまだ表彰台争いはできている」「去年のマシンにあったバランスの問題をまず理解する必要があったし、その影響で今年の開発にも多少支障が出た。でも今はできる限りのことをやっている。マクラーレンと同等になれるかって? たぶん無理だろう。それがF1だ。支配的な年もあれば、勝てない年もある」問われるのは“設計哲学”の再構築2025年のレッドブルは、単なるスランプではなく「設計思想の失敗」に直面している。最速を追求するあまり、実際のドライバビリティやドライバーからのフィードバックを軽視した結果、RB21は“運転不能”とすら評される存在になってしまった。2026年には大幅なレギュレーション変更が控えており、レッドブルは今後、残りシーズンをどう戦うのか、そしてどのように次期マシンを設計するのか──。再び王者に返り咲けるかどうかは、“警告を無視しない開発文化”を築けるかどうかにかかっている。