ブラッド・ピット主演、ジョセフ・コシンスキー監督による映画『F1/エフワン』で映し出される迫力あるレースシーンは、ソニーが撮影監督クラウディオ・ミランダ氏と共創して開発した特別仕様のカメラによって実現した。これまで時速300kmを超えるF1マシンの走行中に映画クオリティの映像を撮影することは難しく、アクションカメラのような小型機材が主流だった。
だが『F1/エフワン』では「Sensor on a stick(棒の先にセンサーを)」というミランダ氏の要望に応えるため、ソニーが新たなプロトタイプカメラをゼロから設計。映像表現力はCinema Line『FX6』と同等、さらに『FR7』の技術を応用し遠隔操作も可能としたことで、従来不可能だった映像表現を可能にした。カメラヘッド部分はEマウントの外径約59mmにほぼ収まる極小サイズ。振動や飛び石、加減速による強烈なGといった過酷な環境に耐える堅牢性も兼ね備えた。さらに新開発のドロップインNDフィルターを搭載することで、急激な光量変化にも対応でき、レースシーンをシネマティックに描き出すことに成功した。この技術は2025年に発表された「VENICEエクステンションシステムMini」にも応用されている。わずか6カ月という短期間で試作から完成までこぎつけた開発チームは「期待を超える映像を実現するため、シネマクオリティと耐久性を両立させることが最大の挑戦だった」と語る。ソニーのエンジニア文化が、現場の声を迅速に形にする力となった。『F1/エフワン』の劇中で記録された臨場感あふれるオンボード映像は、従来のハリウッド映画には存在しなかった新しい表現領域を切り拓いた。技術と情熱が交錯したこの挑戦は、映画ファンだけでなく映像制作の未来にも大きな影響を与えることになりそうだ。


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