ホンダは、2021年シーズン限りでF1から撤退するが、巨額の開発費をかけて開発してきたF1エンジンという置き土産をレッドブルに残す。ホンダは2月15日(月)、2022年以降もホンダのF1エンジンをレッドブルが継続して使用する契約に合意したことを発表した。レッドブルはホンダF1の知的財産権を元に『Red Bull Powertrains』という新会社を設立してエンジンビルダーとなる。
2015年にマクラーレンのワークスパートナーとしてF1復帰を果たしたホンダは、まだタイトルを獲得できていない。その間、HondaJetの開発部門と協力してF1パワーユニットを開発するなど、一部報道では数千億円ともいわれる研究開発費を投入してきた。F1公式サイトは、今回のF1撤退を2008年の第3期の撤退時と多くの類似点があると指摘する。「前回、日本のメーカーはロス・ブラウンがチームを買収するという取り決めに達し、ホンダは1年間運営に資金を提供し続けた」とF1公式サイトは紹介している。ホンダは、ブラックリーにあるファクトリーと2009年にむけて開発していた『RA109』をわずか1ポンドでロス・ブラウンに譲渡。第3期のホンダは1勝しか挙げられなかったが、皮肉なことに、革新的なブラウンディフューザーを備えたRA109改めBGP001は圧倒的な強さを見せ、17戦中8勝を挙げる強さでダブルタイトルを獲得。メルセデスのF1エンジンを搭載したという変更はあったものの、“あと1年我慢すれば”との声が多く聞かれた。今回は2021年という撤退前に最後にタイトルに挑むシーズンはあるが、2022年にF1は次世代マシンを導入する節目でもあり、2009年の再現が起こる可能性もある。今回のレッドブルへのF1エンジンの知的財産権も譲渡についてホンダのブランド・コミュニケーション本部長を務める渡辺康治は「すでに発表の通り、ホンダは2050年のカーボンニュートラル達成という目標のために、2021年シーズンをもってF1の舞台から去ることになります」とコメント。「我々は長い歴史を持つF1参戦のなかで多くのことを学んできており、F1に対して大きな感謝の思いを抱いています。その恩に報いる意味でも、今回の合意により我々にとって大切なパートナーであるレッドブル・レーシングとスクーデリア・アルファタウリがF1への参戦を継続し、F1が今後もスポーツとしてエキサイティングな環境を維持するための力となれたことを、非常に喜ばしく思っています」自動車メーカーのホンダがレッドブルからどのような“恩”を得たかはわからないが、実に日本的な義理人情には溢れるコメントだ。だが、契約社会のF1では珍しい。結果が出せなかったことで3年間でホンダとの契約を切ったマクラーレンの方がF1村では一般的である。ホンダは、ご丁寧にも新たにE10燃料が導入される2022年の変更に対応するために2021年12月31日まできっちりと仕事をする契約をレッドブルと結んでいる。今回のF1エンジンの知的財産権の譲渡がどれくらいの金額で行われるかは明らかにされていないが、ホンダの名誉のためにいうと、撤退する企業の不良資産を低額で譲渡することは珍しいことではない。現にレッドブルは、F1から撤退したフォードからチームを1ドルで引き継いでいる。そう考えると、レッドブルはシャシー、そして、エンジンを微々たる額で取得したことになる。ホンダのバッチはないが、ホンダのエンジンはF1に残る。仮にレッドブルが元がホンダのF1エンジンである『レッドブル・エンジン』で2024年までにタイトルを獲得した際にファンはどのような想いを抱くのだろうか。奇妙なことに今回のレッドブルとの契約について本田技研工業としてプレスリリースは発行されていない。