ホンダがF1撤退を発表した。会見で理由として繰り返し語られたのが2050年の『カーボンニュートラルの実現』。そのためにF1活動に当てていた技術者と技術リソースをそこに傾けていくとした。撤退の理由がカーボンニュートラルへのシフトであることは理解できた。一企業の社長が会見で企業方針を説明するのは当たり前のことだ。ただ、勝手かもしれないが、今回の会見で寂しく思ったのは、それは企業としてのあり方の主張であり、ホンダのF1活動を応援してきたファンへのメッセージとは受け止められなかったことだ。
そもそも、ホンダは企業としてF1活動をマーケティングというよりも技術を磨き、人材を育成する場と捉えていた。その役目は果たせたというのがホンダの見解だ。リーマンショックの煽りを受けて2008年にF1から撤退したホンダだったが、2015年にマクラーレンのワークスパートナーとしてF1に復帰。実際、F1復帰発表の際にも“環境技術”“人材育成”というワードが出ていた。当時、ホンダの社長を務めていた伊東孝紳は「ホンダは、創業期よりレース活動を通じて、技術を研鑽し、人材を育んできました。自動車メーカーとして環境領域をはじめ一層の技術進化が求められる中、F1という四輪レースの頂点にも環境技術が大幅に導入されることを踏まえ、自らの技術を世界で試し磨くために、この度、参戦を決断しました」と語っている。今回のF1参戦の意義について改めて問われた八郷隆弘社長は「やはりF1は世界最高峰のレースということで、我々としましては、今回参戦して技術面ではエネルギーマネジメント技術の進化、そして、ジェットや量産技術、ホンダの中でオールホンダの技術連携、このようなことが技術面では得ることができました」と語る。「また、人材育成面ではパワーユニットや燃料技術、そして、カーボンニュートラル実現に貢献できる若い技術者が育ったとに思っています。そして、結果を出すことに対する苦しさ、辛さ、諦めないチャレンジ精神を学べだと考えております。F1に参戦する意味、技術の進歩と人材育成ということで参戦を考えており、ある一定の成果が今回得られたと考えております」「今回、我々がF1で培ってきたエネルギーマネジメント技術や燃料技術、様々な技術とその技術者のリソースを環境に振り向けたいということで、今回の決定に至りました」「事業の方向性でいきますと、2050年のカーボンフリーに向けた対応というのも重要なチャレンジになりますので、私としては、そちらに特に技術者、技術のリソースを傾けるべきだということで、社内では参戦を継続すべきだという意見はいっぱいございましたけれども、社長として私が判断をしました」ただ、ホンダは宣言文句として『レース活動はホンダのDNA』として“Powere of Dream”のキーワードとともに謳ってきただけに、モータースポーツの頂点でチャンピオンを獲得することなく、“一定の成果を得た”として撤退を決断したことは悲しくもある。だが、今回の会見のなかで八郷隆弘社長は『環境対応もホンダのDNA』だと語った。レース活動と環境対応は企業としてのホンダにとっては同じ価値であり、DNAなのである。「色々なご意見はあると思いますが、我々、今回2030年に四輪販売の電動化を3分の2、さらに2050年にカーボンフリー、これを実現していくということも、ホンダとしての大きなチャレンジだと思います。環境対応を行うということもホンダのDNAであるとに思っております」「その中で我々としての価値、これはやはり先進のパワーユニット、それとエネルギー、これがホンダのブランドの価値になっていくと考えていますので、今回、先進パワーユニットエネルギー研究所を設立し、そこから出るこれからの技術商品で他社とは違うものを作っていきたいと考えています」「F1をやっている技術者につきましては、そのF1で培ってきた技術を2050年カーボンフリーに向けて新たな新しいパワーユニット、エネルギーの研究に従事してもらうように話をしたいと思っています。その挑戦というのは、F1同様に非常に難しい挑戦になります。その挑戦にチャレンジするということも技術者としての一つのチャレンジだと思ってくれると思いますので、そのような方向でしっかりと身に付けた技術を生かすマネージメントをしていきたいと思いますし、そういうことをやることでホンダに入りたいと思う人が出るように、これから我々の出す商品、技術をしっかりと出していき、それを見守っていただきたいというふうに思っております」「今回の参戦戦終了につきましては、短期的な収益、そういうことではなくて、やはり2050年に向けてカーボンニュートラル、これからの環境対応を考えると、特に技術者のリソースこれをどこに振り分けるべきかということを常々考えておりまして、やはり先進のパワーユニットエネルギーという領域を強化すべきだということで、今回大きな決断をしました。その結果をしっかりと出していくということが我々の務めだと思っています。また、社会環境もそういう環境に対するものに対して非常に敏感になり、強い期待もあると思っておりますので、それを実現するために今回の決断を致しました」企業として、技術、製品に焦点を置くのは当然のことだ。しかし、ファンというものはモータースポーツにある種の“夢”を見るもの。その夢に現実をつきつけた記者会見だった。モータースポーツファンにとって、レースと環境対応に同じ夢を重ねることは難しい。
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