ホンダF1のパワーユニット開発責任者を務める浅木泰昭が、2019年シーズンに遂げた進化を振り返った。昨年、レッドブルとのパートナーシップを開始したホンダF1は、開幕戦オーストラリアGPで3位表彰台という好スタートを決め、オーストリアGPで13年ぶりの勝利を挙げ、最終的に3勝、3回のポールポジション、3度のファステストラップを記録するなど、2015年にF1に復帰して以来、最高の結果を出した。
13年ぶりの勝利について浅木泰昭は「シーズン始まって、その前2018のときの様子からすると、ルノーとメルセデスとのギャップぐらいだったら車体のパワーで勝ってくれるんじゃないかという淡い期待でスタートを切ったんですが、いかんせんメルセデスに隙がない。『これは勝てるのかな?』というなかでオーストリアでしたね」と振り返る。「あれは非常に良かったというか、13年ぶりですからSakuraの研究所の人間にも勝ちを1回も経験していない人間も結構いるわけですよ。そういう人たちが『勝つってこういうことなんだ』と、勝てばメディアにいろいろな取り上げてもらったり、いろんな人がおめでとうと言っていくれるし、そういう初めての経験をさせたという意味で言うと、あの13年ぶりの勝利という意味はデカいかなと思います。私的にはホッとしたという感じですね」浅木泰昭は、1980年代の第2期ホンダF1の活動でF1エンジン開発を担当し、常勝マシン創りに貢献。その後、F1を離れ、初代オデッセイ、4代目インスパイアなどの開発に携わった後、2010年代には開発責任者として、初代N-BOXを皮切りにNシリーズを送り出した。だが、定年を間近に控えた2018年にHRD Sakura センター長とパワーユニット開発責任者としてホンダのF1活動に復帰した。「半年後に60歳になるということで、これでホンダ人生も終わるなと思っていたんですけど、その頃、マクラーレンとの関係で『どうすんだ』というような話が持ち上がったんですよね」と浅木泰昭は振り返る。「『やってくれないか』という話のときに、このSakuraのエンジニア、特にエンジニアが多いわけで私の出身舞台ですから、そこがこのまま勝てずに終わった時のことが頭をよぎって、あと半年で定年だったんだけど、無謀にも引き受けてしまいました」だが、当時のホンダのF1パワーユニット、特にMGU-Hの信頼性に大きな問題を抱えていた。そこでHondaJetとの共同プロジェクトがスタートすることになる。「Sakuraに来てみて、問題点というと、レースをまっとうに走り終えれるかどうかわかんないんですよね。MGU-Hがいつ壊れるかわからない。パワーを出すためのダイナモテストでもいつ壊れるかわからないから計画したテストがろくに進まないというような状況でしたからね。『これはダメだ』と思いましたね」と浅木泰昭は振り返る。「少々のことでは原理的に治らないということが見えてましたから、HondaJetのエンジン開発メンバーの助けを乞うという形でそれを解決しようという。私一人ではどうこうというわけではないんですけど、研究所全体として、今のそのときのホンダの窮地からなんとか立ち直って、『ホンダの研究所ってそんなレベルじゃないよ』というのを見せなきゃとのが全体的にありましたね。Jetの人が助けてくれました」F1オーストリアGPでは、勝利を目指すマックス・フェルスタッペンに無線で『エンジンモード11 ポジション5』というメッセージを伝えるやり取りが国際映像に抜かれた。実際にはポジション7が最大モードであることが後に説明されたが、そのような話題がメディアをにぎわせたことはホンダとして良いことだったと浅木泰昭は振り返る。「あのポジション5の質問というのは良かったですよね。みんなでその説明して『そういうことか』みたいに理解していもらえる。ダメージコントロールという考え方なんですよね。3基のパワーユニットで1年戦うためにはダメージの蓄積をどうコントロールするかというのを説明する機会になった。ダメージを多少蓄積してもいいからというね」そして、第13戦ハンガリーGPでは、ホンダのF1エンジンとして13年ぶりにポールポジションを獲得する。「ポールポジションというのはそこのサーキットで1番早く走れたということですよね」と浅木泰昭は語る。「その前からレッドブルからも当時のトロロッソからも予選をなんとかにかしてほしいといいのは言われ続けていたんですよね。我々もそこを余力を余して戦っていたわけではないんですけどど、ようやっとここまで来たかという感じで、パワーもそこそこ戦えるところまで来たという意味では感無量でしたね」また、第20戦ブラジルGPでは、マックス・フェルスタッペンが優勝、ピエール・ガスリー(トロロッソ)が2位という1-2フィニッシュを達成する。「パワーユニットの技術屋として、最終コーナーのハミルトンとガスリーのドラッグレースが印象的でしたね」と浅木泰昭は振り返る。「最初インを突かれて、メルセデスはメカニカルグリップがいいみたいで、行かれちゃうかなと思ったら、画面が切り替わってよくわかんなくなっちゃって・・・画面が戻ったときまだ前にいて、あのときはやったと本当に思いましたよ」だが、ホンダのF1エンジンが強さを見せたのは、オーストリア、ブラジルといった標高の高いサーキットだった。実際にホンダF1のスペック4エンジンはメルセデスに匹敵できていたのだろうか?「HondaJetのおかげもあって、標高がちょっと高いところでは戦えているかなという感じでしたよね。ターボの効率がいいということの証かなと思うんですけど、標高が低いところでいうとまだもうちょっとかなというのが去年の終わり方だったとは思っています」「それは偶然じゃなくて、ターボ効率の良さというものがあります。なぜかというと、同じ空気量が欲しいときに大気圧が低いと圧力比を上げなきゃいけない。圧力が凄く高いんで、効率が一気に落ちるところを使うんですよね、だから、そこはそういう理由があったんじゃないかと」「今年はそういう標高が低いところでもなんとか追いついた、ガチで戦えるということになれば、標高が高いところも数戦残っているはずだから、行けるんじゃないかと言うのが展望ですね」
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