FIA(国際自動車連盟)の会長モハメド・ビン・スライエムが、12月に予定されている次期会長選挙で対立候補が不在となり、2期目を無投票で迎える見通しとなった。アメリカ人候補ティム・メイヤーが立候補を断念したことで、現職のスライエム会長が唯一の候補者として残る形となった。メイヤーは15年間にわたってFIAの上級スチュワードを務めてきたが、昨年11月に解任。その後、他2名の候補とともにスライエムへの挑戦を表明していた。
しかし、FIAの規約により、会長候補者は世界6地域からそれぞれ1名ずつ、副会長候補を指名しなければならない。このうち南米地域の代表であるファビアナ・エクレストン(元F1代表バーニー・エクレストンの妻)がすでにスライエム支持を表明しており、メイヤー陣営はリストを完成できなかった。その結果、メイヤー、元レーシングドライバーのローラ・ヴィラーズ、ベルギーのジャーナリストであるヴァージニー・フィリポら3名はすべて立候補資格を失うこととなった。「民主主義の幻想」メイヤーがFIA選挙制度を批判ティム・メイヤーはF1アメリカGPの開催地オースティンで記者会見を開き、立候補断念を発表。「FIAの会長選挙はもはや民主的なプロセスではない」と強く批判した。「今回の選挙では、もはや投票すら行われない。意見を比較する議論も、ビジョンを競う場も、リーダーシップを検証する場もない。候補者は1人、現職だけだ。これは民主主義ではなく、民主主義の幻想だ」とメイヤーは語った。さらに、「選挙が投票前に決まってしまうのは民主主義ではなく演劇だ。加盟クラブに実質的な選択肢がないのなら、彼らは参加者ではなく観客にすぎない」と続けた。メイヤーは選挙過程における倫理的違反の可能性について、FIAに正式な抗議を提出している。FIAが声明を発表「公正な手続きを保証している」これに対し、FIAはCrash.netを通じて声明を発表し、選挙の公正性と透明性を強調した。「FIA会長選挙は、公平性と誠実さを確保するために構造化された民主的プロセスである。2025年選挙の要件や締切日、適格基準はFIA規約および内部規定で明確に定義されており、すでに6月13日から公式ウェブサイトで公開している」と説明。「副会長の地域代表要件は新しいものではなく、過去の選挙でも適用されてきた」と付け加えた。F1界への影響:スライエム体制の継続が意味するものスライエム会長は2021年末に就任して以降、FIAの構造改革やコストキャップ問題、ハミルトンらとの対立など、F1を取り巻く多くの論争の中心に立ってきた。今回の無投票再選により、2026年以降の新レギュレーション期も現体制が続くことが確定的となる。特にFIAとFOM(フォーミュラ・ワン・マネジメント)との権限分配を巡る緊張関係が続く中で、スライエム体制の継続は政治的安定をもたらす一方、内部の透明性や改革の停滞を懸念する声も上がっている。彼の再選は、F1のガバナンス構造における「変化の停滞」を象徴する出来事とも言えるだろう。