2014年に導入されたF1パワーユニットには、新たなエネルギー回生システムとしてMGU-Hが導入された。ここで改めてMGU-Hの仕組みを解説する。F1は2009~2013年にKERS(Kinetic Energy Recovery System)を導入してハイブリッド化。モーターとジェネレーター(発電機)ユニットを利用し、運動エネルギーを電気エネルギーに変換して加速に使用した。
2014年に導入されたF1パワーユニットには、このKERSを発展させたMGU-Kに加えて、新たにMGU-Hというエネルギー回生システムが採用された。MGU-Hの「MGU」はMotor Generator Unitの略、「H」はHeatの略で「熱」(排熱エネルギー)を意味している。MGU-Hは、エンジンから出る排気の熱をエネルギーに変換する。通常、エンジンの燃焼室を出た高温の排気は、排気管を通じて大気に放出される。この熱エネルギーを再利用するために、専用のモーター/ジェネレーターユニットを作動させて電気を作る。ターボ車の場合、減速を終えて次に加速しようとアクセルを踏んでも、排ガスの流量が増えてタービンが本来の性能を発揮するのに一定の時間を要してしまう(ターボラグ)。そこで、MGU-Hを利用してコンプレッサーを回転させ、タービンが排気の到達を待たずに機能させることで、ターボラグの解消を行っている。全開加速時は、タービンに供給される排気エネルギーが増えるため、エンジンが必要な空気を圧縮するためのコンプレッサーの仕事を上回る場合がある。その際、使いきれなかった排気エネルギーによってMGU-Hで発電し、その電力を、直接MGU-Kに送る。MGU-Hでの発電量は制限されておらず、バッテリーの充放電エネルギー制限に縛られることなく、エンジンにMGU-Kの出力を上乗せして走ることができる。言い換えれば、余った排気エネルギーを、効率良く加速に使うことができる。コーナー出口の全開加速では、MGU-Hからだけでなく、バッテリーからもMGU-Kに電力を供給する場合がある。こうすることで、MGU-Kをレギュレーションで決められた最大出力(120kW)で駆動し、フル加速することができる。2015年にマクラーレンのパートナーとしてF1復帰したホンダは、このMGU-Hに苦戦を強いられた。当時マクラーレンは、“サイズ・ゼロ”と呼ばれるマシンのリア部分を極端にコンパクトにした非常にアグレッシブなコンセプトを採用しており、ホンダはこれに対応するべく、通常エンジンの外にレイアウトされるコンプレッサーをエンジンのVバンク内に収めた。それによって、MGU-Hのサイズがライバルよりも小さく、出力面で劣っていた。そのため、MGU-H / MGU-Kによるデプロイメント(アシスト量)が弱点となった。ホンダは、2017年にF1パワーユニットの設計を大幅に見直し、レイアウトを変更してMGU-Hを大型化。パワーアップを目指したが、それによってエンジントラブルが多発。1回目のグランプリで4基のパワーユニットが相次いで壊れたこともあった。問題はMGU-Hのなかにあるシャフトだった。MGU-Hを大型化したことで、出力も向上したが、シャフトが長くなったことで深刻な問題が発生した。シャフトが長くなったことで、外からの振動が加わるとある回転数で大きくしなるようになったことが原因だった。その結果、軸の振動でベアリングが破損し、さらにシャフトが暴れまわることでパワーユニットが壊れた。ホンダは、MGU-Hの問題を解決するべく、ホンダジェットの航空機エンジン部門に助けを求めた。航空機のターボファンジェットエンジンの仕組みはMGU-Hと構造が似ている。ジェット部門は、MGU-Hの問題点を見抜き、ベアリングとシャフトを改良。MGU-Hの信頼性問題は解決。パフォーマンスに焦点を置くことが可能になった。2019年、ホンダはスペック3はジェット部門と共同開発した新型MGU-Hを投入。ターボとの相乗効果で後の高地のレースでパフォーマンスを発揮することになった。MGU-Hは、複雑で開発コストもかかるため、2021年の新レギュレーションでは廃止が予定されていた。しかし、エンジンメーカーが反対したことで、2021年以降も存続することが決定。F1への新規参入を目指していたポルシェやアストンマーティンが断念したのはMGU-Hの存続が一因とされている。関連:ホンダF1 特集 | ジェット機部門がすぐに見抜いたMGU-Hの問題点
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