元F1ドライバーのナイジェル・マンセルは、アイルトン・セナの死によってF1ははるかに安全なものになったが、同時にそれによって“ドライバーがヒーロー”だった頃のF1の魅力は失われてしまった。1992年のF1ワールドチャンピオンであるナイジェル・マンセルは、勇気と闘志あふれる攻撃的なスタイルで“ライオンハート”と呼ばれ、フェラーリ在籍中、イタリアのティフォシにはイル・レオーネ(Il Leone )と呼ばれた。
1992年のF1ワールドチャンピオンであるナイジェル・マンセルは、ターボ時代やグラウンドエフェクトカーといった小さなミスが最終結果に大きな違い、さらには生命さえにも危険をもたらすリスクをはらんだ時代に生きてきた。ナイジェル・マンセルは、ほぼ40年経った今でも目の前で起こったジル・ヴィルヌーヴの致命的な事故の光景が鮮明に蘇ってくると語る。1982年にゾルダーで開催されたF1ベルギーGPの予選2日目の事故でジル・ヴィルヌーヴは命を落とした。ヨッヘン・マスの右リアタイアに乗り上げて宙を舞ったヴィルヌーヴのフェラーリは、前面から路面に叩きつけられて大破。ヴィルヌーブの身体はシートごとマシンから投げ出され、コースわきのフェンスに叩きつけられた。 懸命の蘇生処置も虚しく、その日の夜9時過ぎに死亡が確認された。ジル・ヴィルヌーヴの後ろを走行していたナイジェル・マンセルは、目の前で起こる事故を見ていた。「マシンが宙を舞って再び降りてくるのを見た。ジルがマシンから投げ出され、ゲートに寄り掛かっているのを見た。運転していて、彼があのクラッシュから生還する可能性はゼロであると思った。これまで起こった中で最もショッキングな出来事だった」とナイジェル・マンセルは Daily Mail に語った。「当時、ドライバーは定期的に命を落としていた。精神的に本当に苦しかった。ジルは僕のことを友人として受け入れてくれたし、僕たちは親しい仲間になって、彼は僕に良いアドバイスをくれていた」「ゾルダーで彼に起こったことを決して忘れることはないだろう。あの光景はずっと僕と一緒にいるだろう。80年代と90年代のF1はその点で厳しいものだった。自分がクラッシュしなくても、深刻な怪我をする可能性があった。ウォールがトラックに非常に近く、次に何を起こるかまったくわからなかった」そして、ナイジェル・マンセルは、1994年のアイルトン・セナの死が、良くも悪くもF1のすべてを変えたと考えている。「アイルトン氏の死は、モータースポーツ全体にとって大惨事だった。その後、はるかに安全になったし、それは良いことだ」とナイジェル・マンセルは語る。「しかし、トラックはあまりにも無菌になった。それ以前は、F1は素晴らしいスポーツであり、ドライバーはヒーローだった。すべてのミスが厳しく罰せられていた。勇気を持っていた人だけが時速200キロ以上でコーナーに突っ込んでいくことができた」「これは今日ではもう重要ではない。ドライビングエラーは影響を与えないので、もはや運転する勇気や能力に依存することはなあい。そして、それは残念なことだ」「ルイスならばあのような環境でもうまくやっていただろう。だが、時代を比較するのは非常に難しい」「当時は、非常に多くの優秀なドライバーが単純な事故に遭い、脚や腕などを骨折し、キャリアを継続できなくなった。今の優れたドライバーは酷いミスを犯しても、怪我はしない」ナイジェル・マンセルは、現在のF1マシンには身体的な挑戦が欠如していると主張。レース後のF1ドライバーはまるで“ヘアーサロンから出てきた”ように見えると苦言を呈した。「彼らはマシンの中でほとんど汗もかかない。レースの終了後は、まるでヘアーサロンから出てきたようばかりのようだ」「私の時代で美かったことはは、180戦を終えてもまだ生きていると自慢でき、素晴らしいキャリアだったと言えたことだ」ナイジェル・マンセルは、F1におけるルイス・ハミルトンの成功は、彼の才能だけでなく、メルセデスとの関係が大成功している結果でもあると考えている。「彼が非常に若い年齢から与えられた機会だ」とナイジェル・マンセルは付け加えた。「ミハエル・シューマッハと同じように、彼はその能力を実証するためにメーカーから信じられないほどのサポートを受けてきた。彼はマクラーレンで彼の最初の世界選手権に勝ち、その後チームを移籍してまた5つのタイトルを勝ち取った」「歴史は、彼を我々の国の歴史の中で最も偉大なドライバーとは言わないまでも、偉大なドライバーの一人として描写するだろう」「彼が引退する前までに7回目もしくは8回目の世界選手権に勝つことができない理由はない」それでも、ナイジェル・マンセルは、偉大なファン・マヌエル・ファンジオを彼の“歴代の偉人”リストの最上位に置く。「私は常にファンジオと言っている。ルイスも同意すると思うが、その時代に運転した人たちは真のヒーローでした。シートベルト、適切なヘルメット、適切なゴーグル、そして、時にはグローブもなかった」とナイジェル・マンセルは主張する。「彼らは足の間に燃料タンクがあった。もし事故に遭えば、生きるか死ぬかは五分五分だった」「だが、ルイスはうまくやっている。あのレベルの称賛を得た人は皆、多くのアドバイスを受ける。彼はちゃんと地に足をつけ、自分で決断し、それらに満足しなければならない」
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