スイス政府は、1955年から続いていたサーキットレース禁止法を2026年7月1日付で解除すると正式発表した。これにより、スイス国内で常設サーキットを使用したモータースポーツ開催が71年ぶりに合法化される。この禁止措置は、1955年のル・マン24時間レースで発生した大事故を受けて導入されたものだった。当時は83人の観客とピエール・ルヴェーが死亡し、世界のモータースポーツ界に大きな衝撃を与えた。
1955年ル・マン大事故から続いた“欧州唯一”の禁止措置スイスは長年にわたり、欧州でも極めて珍しい「サーキットレース禁止国」として知られてきた。ただし近年は規制緩和の議論が進み、2015年には電動レースに限った特例を導入。フォーミュラEが2018年にチューリッヒ、2019年にベルンで開催された。しかし、これらのイベントは物流面の問題や政治的反対、地域住民の反発もあり、その後は消滅していた。フランス紙『レキップ』によると、スイス国内では2010年頃から禁止解除に向けた議会レベルの動きが始まっていたという。“全面解禁”ではなく慎重運用へ今回の法改正によってサーキットレースは合法化されるが、すぐにF1や大型国際イベントが開催される状況ではない。イタリア紙『イル・ソーレ24オレ』によれば、今後の開催許可は各州(カントン)が個別に判断する仕組みとなり、騒音、環境、安全性などをケースごとに審査する。そのため、恒久サーキット建設やF1スイスGP復活については依然としてハードルが高い状況だ。同紙は「スイスGP復活は、現時点では具体案というより“示唆”の段階にすぎない」と報じている。アウディF1本拠地を抱えながら“レース禁止国”だった矛盾スイスはこれまで、国内でサーキットレースを禁止しながらも、多くのモータースポーツ関連企業を抱える特殊な立場にあった。特に現在のアウディF1チームはスイス・ヒンウィルを本拠地としており、世界トップレベルのF1開発拠点を国内に持ちながら、自国ではサーキットレースを開催できないという矛盾を抱えていた。今回の規制解除によって、その“スイス特有のねじれ”はようやく解消へ向かうことになる。もっとも、騒音問題や環境意識の高い国民性を考えると、F1を含む大規模イベント実現までにはなお長い時間が必要になりそうだ。