メルセデスはF1イギリスGPのスプリント予選で、FIAが今季序盤に禁止した予選時のパワーデプロイ戦略と同様の効果を得る新たな手法を導入していたことが明らかになった。ドライバーがタイム計測ライン直前でアクセルを戻すという一見不可解な操作によって、規則の範囲内で最大出力をより長く維持していたという。
ジョージ・ラッセルとキミ・アントネッリは、スプリント予選のアタックラップ終盤でスロットルを緩める動きを見せており、この戦略は現時点ではメルセデスのみが採用しているとされる。ライバルチームもすでにこの挙動に気付き、注目しているという。禁止された予選テクニックを別の形で再現今季序盤、メルセデスとレッドブル・レーシングは、バッテリー残量が減少した際に本来適用される出力低下(ランプダウン)を回避し、MGU-Kの最大出力350kWを通常より長く維持する方法を見つけていた。通常はバッテリーを使い切ると出力は毎秒50kWずつ減少していく。しかし両チームは、MGU-Kを停止した際にはこのランプダウン規定が適用されないというレギュレーションの例外を利用。いわゆる「コンティニュアス・オフセット」モードを作動させることで、ライバルより短時間ながら50~100kW高い出力を維持し、フィニッシュラインまでの加速性能を高めていた。しかし、この手法ではMGU-Kを停止した後に60秒間再起動できないため、コース上で急減速したり停止したりする危険性があるとして安全面が問題視された。その結果、FIAは3月末の日本GP終了後、緊急時を除くMGU-Kの意図的な停止を認めない方針を打ち出し、このテクニックは禁止された。新たな方法は「スロットルオフ」ところがシルバーストンでは、メルセデスが別の方法で同様のメリットを引き出していた。『The Race』によると、アントネッリとラッセルはストレートエンドまで350kWの最大出力を維持した後、タイム計測ライン直前でアクセルを戻している。これにより、ランプダウン規定を回避しながら規則を順守できるという。この方法が成立するのは、技術規則に「ドライバーの要求出力が負(アクセルオフ)」である場合や、「内燃エンジン(ICE)の出力要求が負となり、ドライバー要求を満たすためにERS-K出力をさらに低下させる必要がある場合」は通常のランプダウン条件が適用されないとの例外規定が存在するためだ。つまり、バッテリーを350kWで使い切る直前まで最大出力を維持し、最後にアクセルを戻せば、規則違反にならず同様の効果を得られる仕組みとなっている。FIA関係者も『The Race』に対し、「スロットルを戻す前の段階で出力低下が1秒間に50kWを超えていなければ、この手法は完全に規則に適合している」と説明している。シルバーストン特有のコース特性を活用この戦略が機能する背景には、シルバーストンのレイアウトがある。最終コーナー「クラブ」からタイム計測ラインまでの距離が比較的短いため、ライン直前まで最大出力を維持する恩恵が大きい。GP-Tempoのテレメトリーデータでは、アントネッリとポールポジションを獲得したルイス・ハミルトンを比較すると、クラブ出口まではほぼ同等の速度推移だったものの、最大出力を維持したアントネッリは途中で約7~8km/h速い速度を記録している。その後、ライン直前でアクセルを戻したため、計測ライン通過時には逆にハミルトンより約5km/h遅くなった。タイム上でも、クラブ出口ではアントネッリはハミルトンより約0.125秒遅れていたが、最大出力を維持した効果で一時は0.002秒差まで接近。しかし最後にアクセルを戻したことで、最終的には0.011秒差でポールポジションを逃す結果となった。もし最後まで全開で走っていればポールを獲得できた可能性もあったが、その場合はランプダウン規定への抵触リスクが生じていた可能性がある。今後は他チームにも広がる可能性今回の手法は現時点でメルセデスのみが採用しているとみられるが、すでにライバルチームもその挙動を把握している。FIAも合法との見解を示していることから、シルバーストンのように最終コーナーから計測ラインまでが短いサーキットでは、今後ほかのチームが同様の戦略を採用する可能性もありそうだ。
全文を読む