メルセデスF1は、2024年F1マシン『W15』のフロントサスペンションに“アダプタブル”なトリックを搭載した。メルセデスF1は、発表会のレンダリング画像でフロントサスペンションにアッパーリアウィッシュボーンレッグが追加されている画像を公開。当初、これはライバルの目をそらすためのプレシーズンの陽動作戦と考えられていた。
しかし、その画像が実際に示していたものは、今年メルセデスのシャシーとフロントサスペンションに組み込まれた新しい“アダプタブル”な配置への手がかりであることが判明した。プレシーズンテスト3日目に向けて、メルセデスはメルセデスはアッパーウィッシュボーンのリアレッグのインボードマウントを下方に移動させた。この移動により、フロントサスペンションのアンチダイブが大幅に増加する。通常、F1ではコンマ何ミリという単位で寸法を語るが、見てわかるように、これは約3センチの上下移動だ。実際の構造ウィッシュボーンは金属製で、おそらくチタン製だろう。カーボンの空力シュラウドの内側に取り付けられ、このカーボンのカバーパネルの下に4つの固定具で固定される。実質的には、カーボン・ウィッシュボーン・シュラウドの末端ということになる。こうすることで、メルセデスは構造的なウィッシュボーンコンポーネントを新たに作る手間をかけることなく、カーボンシュラウドの空力効果を最適化することができる。チームが行ったことで、どれだけのアンチダイブが可能かを実験することができる。多ければ多いほど、ホイールのロックに悩まされる可能性が高くなる。低いピックアップポイントはアンチダイブの量が多いので、いくつかのオプションがあったほうがいい。メルセデスがフォールバック・オプションを用意する可能性は低く、どこまで行けるか、さまざまなレベルで実験する柔軟性を与えているのだ。これらのマシンのブレーキ負荷は、初期状態で6G程度である。これは、車体後部から車体前部に300kgの重量が移動することにほぼ等しい。それを支えるには、より硬いスプリング以上のものが必要だ。この重量移動に抵抗するためにアンチダイブを使ってブレーキング時にクルマのフロントを支えることで、初期ブレーキング時にクルマが地面に衝突するのを防ぐことができる。また、よりソフトなスプリングを使用することができるため、通常のハンドリング要件にも役立つ。リヤはその逆だ。チームはアンチリフトと呼ばれるものを使って、最初のブレーキング段階でリアを抑える。クルマの両端の高さをコントロールすることは、ブレーキングの安定性、ひいては空力的な圧力中心の安定性にとって非常に重要となる。リアサスペンションの懸念メルセデスの新しいリアサスペンションは、同じギアボックスとリアサスペンションのセットアップを使用しているアストンマーティンと同様にプッシュロッドの角度が浅い。角度が浅ければ浅いほど、メカニカルレシオは悪化し、そのメカニカルレシオを克服するためにシステムの負荷が高くなる。ホイールは垂直方向に動く。プッシュロッドがロワーウィッシュボーンの脚のアウトボード側の端に取り付けられていた場合、ロッカーに取り付けられているプッシュロッドのもう一方の端も同じように上下に動く。もしプッシュロッドが同じ脚に水平に取り付けられていたら、ロッカーに取り付けられている方の端は上下動しない。ホイールの垂直方向の動きとプッシュロッドのもう一方の端の動きの間の適切な機械的比率を得るには、プッシュロッドの外側の端が取り付けられているウィッシュボーンの脚に対する角度に関係する。赤:プッシュロッド ダークグリーン:トップウィッシュボーン後脚 ライトグリーン:トップウィッシュボーン前脚 ダークブルー:下部ウィッシュボーン後脚 ライトブルー:下部ウィッシュボーン前脚 オレンジ:ドライブシャフトとそのカバー マゼンダの楕円:トップロッカー 黄色:トーションスプリングプッシュロッドの角度は、実際には赤線とダークブルー線(上図)の間にある。しかし、紺色の線はプッシュロッドのインボードマウントよりもずっと後方にあるため、この写真では基本的に角度の違いはないように見える。ドライブシャフトカバーとプッシュロッドの間に、薄いマゼンタ色の両頭矢印では、ドライブシャフトは真正面から見ても真後ろから見てもかなり水平なので、ウィッシュボーンの脚に対するプッシュロッドの角度がどの程度になるかを合理的に示すことができる。ご覧のとおり、角度は非常に浅くなっている。前述したように、望みのメカニカルレシオを得るには、インボードロッカーレシオですべてを行う必要がある。そのためには、ホイールをミリ単位で垂直に動かす必要があり、それによってプッシュロッドのインボードエンドがミリ単位で動くことになるが、この角度では非常にわずかだ。トーションスプリングの下側の取り付けが固定されている場合、ロッカーの回転角度とプッシュロッドの相対的な動きによって、トーションスプリングが回転し、車を支えることになる。通常、トーション・スプリングとプッシュロッドの角度はほぼ90度になっているはずだが、黄色の二重矢印(下図)からわかるように、そこから大きく離れてはいない。