メルセデスF1がストレートで“車高を下げる”リアサスペンションは、実際には他チームでも採用している仕組みだ。しかし、その意図はライバルとは異なっている。レッドブルは、F1トルコGPで、メルセデスのF1マシンがストレートで時速20kmのブーストを得ていたと主張。DRSを使用しても追加の速度は時速10~12km程度であり、レッドブルは困惑した。
その後、F1トルコGPのリアビューカメラでは、メルセデスのリアの車高がストレートでマシンにダウンフォースが加わった際に、突如、機械的に下がっていることが明らかになった。マシンの速度が上がると、リアウイングからのダウンフォースは、速度の2乗で増加し、マシンの後部がサスペンションに押し付けられ、フロアのレーキ角が減少する。マシンが地面に対して平行に近づくほど、ボディのドラッグが減り、ストレートスピードは上がる。レッドブルを代表とする“ハイレーキ”のマシンは、マシンが前傾姿勢を取っており、ストレートで安定したダウンフォースがかかった際に慣性で並行姿勢に近づくことでドラッグを減らすという手法は以前から用いられてきた。では、レッドブルとメルセデスで、このリアの車高を下げる仕組みにどのような違いがあるのか。レッドブルが採用するハイレーキは、マシンに前傾姿勢を取らせることによって、フロア全体をディフューザーのように働かせてダウンフォースを稼ぐというコンセプト。リアの車高が高いほど機能する。その分、ドラッグは大きくなり、直線スピードを向上させたいサーキットでは、ウイングが薄いローダウンフォースパッケージを採用してバランスをとってきた。一方、メルセデスのローレーキは、路面に対してフラットなロングホイールベースによる面積なフロアでダウンフォースを稼ぐというもの。低い車高でパフォーマンスが向上する傾向がある。マシンの姿勢によるドラッグは小さく、どちらかというとボディ表面でダウンフォースを稼ぐために大きなウイングが必要となる。6月のF1フランスGPで、レッドブル・ホンダはメルセデスよりも低いウイングを走らせ、ストレートで速く、ラップ全体でも速く走ることができた。この段階では、RB16Bは、オールラウンドな空力パッケージのように見えた。当時、メルセデスのF1チーム代表を務めるトト・ヴォルフは「あのような低いウイングを走らせれば、ストレートで得るより多くのラップタイムをコーナーで失っていただろう」と観察している。しかし、メルセデスF1は、イギリスGPで最終となる空力アップグレードを投入。そこから直線スピードは向上した。メルセデスが採用した手法は、リアウイングを低くしてドラッグを減らすのではなく、リアの車高を下げてディフューザーが発生されるダウンフォースを遮断することでドラッグを減らすというもの。したがって、レッドブルを始めとする複数のチームがドラッグを低減させるために“曲がるリアウイング”を使用していたのとは異なり、大きなリアウイングのままでもドラッグを減らして直線スピードを減らすことができる。しかも、それはF1トルコGPではDRSよりも効果が大きかった。レッドブル・ホンダが慣性でリアの車高を下げているのに対し、メルセデスは“ストールポイント”を設定し、どのレベルにダウンフォースが到達すると、おそらくサードダンパーなどで多いくリアの車高を下げるように調整している。これはエンジニアリングにとって非常に複雑なことであり、非常に強力なシミュレーションツールが多数必要となる。だが、ダウンフォースが必要なコーナーとストレートでのスピード差が小さければ効果は発揮されないという弱点がある。それは高速コーナーが多いサーキット・オブ・ジ・アメリカズで実証された。クリスチャン・ホーナーは、今後カレンダーに登場するいくつかの会場はメルセデスのアイデアに最適であると信じている。「それはいくつかのトラックでより大きな影響を与えるだろう」とクリスチャン・ホーナーは語った。「ここ(米国)では効果が減少したが、たとえばジェッダのような場所では、非常に強力になる可能性がある」レッドブルはメルセデスがサスペンションで行ったことに興味をそそられているが、デザインがF1のレギュレーションに違反しているとは考えていないことを明確にした。「いいや、我々はそれが違法だとは感じていない」とクリスチャン・ホーナーは語った。「これは歴史的に使用されてきたものだ。過去に彼らが使用したのを見たことがある」「しかし、我々がトルコで見たのはそのかなり極端なバージョンだ。あのサーキットがそれを可能にしたように思う」