メルセデスの2014年F1マシン『W05』は、マクラーレン・ホンダ MP4/4が保持していた歴代年間最多勝利数、1-2フィニッシュ数という“最強マシン”記録を更新するも、最も過小評価されている1台でもある。2014年はF1の新時代の幕開けを告げるシーズンとなった。従来の“エンジン”にあたる内燃機関(ICE)にエネルギー回生システム(ERS)を併用したハイブリッドシステム「パワーユニット(PU)」が導入された。
メルセデスは、このPUでフェラーリとルノーというライバルを圧倒する性能を示した。エンジンブロックの前部にコンプレッサー、後部にタービンを配置するスプリットターボ方式を採用したメルセデスのPUはプレシーズンテストから高い信頼性とパフォーマンスを示した。また、2014年は新レギュレーションによってフロントノーズ先端の高さが規定され、多くのチームが高いノーズに突起をつけた“アリクイノーズ”を採用したが、メルセデスはノーズ全体が低い“カモノハシ”のようなデジアンを採用。美しさという点では群を抜いていた。ローノーズ化に合わせて、プッシュロッド式のフロントサスペンションのアームは“ハの字型”の角度が緩くなり、水平に近くなった。フロントダブルウィッシュボーンのロワアームが通常の“V字型”ではなく、“Y字型”とするなどジオメトリーを突き詰めた。ルイス・ハミルトンとニコ・ロズベルグが駆ったメルセデス W10は圧倒的な強さをみせる。19戦中優勝16回は1988年のマクラーレン MP4/4と2004年のフェラーリ F2004が残したシーズン15勝、1-2フィニッシュ11回はMP4/4の10回という記録を塗り替え、ポールポジション18回は2011年のレッドブル RB7と並ぶ最多タイ記録となった。序盤に5戦連続、終盤にも4戦連続1-2フィニッシュを飾るなど完全にシーズンを席巻し、3戦を残してコンストラクターズタイトルを確定。チームメイト同士で最終戦までもつれ込んだドライバーズタイトルは、ルイス・ハミルトンがメルセデスとしては1955年のファン・マヌエル・ファンジオ以来59年ぶりとなるドライバーズタイトルを獲得。コンストラクターズタイトルは1958年以降制定されたため、メルセデスとして初戴冠となった。上記のような圧倒的な強さをみせたメルセデス W05だが、オールドファンからは“最強マシン”という評価に物言いがついている。最多勝利数ではマクラーレン・ホンダを上回ったが、当時はレース数が少なかったため(16戦中15勝)、勝率ではメルセデスが84.2%なのに対し、マクラーレン・ホンダは93.7%と上回っている。メルセデス W05は整ったマシンではあるものの、優勢な立場にいるのはパワーユニットが圧倒的に強力だからだとされた。だが、メルセデスは、シャシー性能も空力に定評のあるレッドブルより優れていると評価している。マクラーレン・ホンダ MP4/4もホンダのV6ターボの強さが際立っていたが、PUの大人しいサウンド、そして、空力の進化によって接近戦が減少したことなどにより、“最強マシン”という評価では最も過小評価されてしまっているのがメルセデス W05と言える。だが、現時点で6年間続いているダブルタイトル制覇のメルセデス政権の狼煙を上げた記念すべきマシンだ。
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