2009年シーズン、最も進化を遂げたのがマクラーレンだ。開幕戦オーストラリアGPの予選。Q2トップタイムのジェンソン・バトンとルイス・ハミルトンの差は約2.5秒あった。そのマクラーレンが、ヨーロッパGPでポールポジションを獲得するまで戦闘力を高めた。そのキーとなったのが、論争となった“ダブルディフューザー”。シーズン前半はダブルディフューザーを搭載したブラウン、トヨタ、ウィリアムズと、非搭載チーム、KERS搭載を選んだマクラーレン、フェラーリ、ルノーとで明暗が分かれた。
だが、FIAがダブルディフューザーを完全な“合法”と認めたことで、非ダブルディフューザー組はエアロダイナミクスの大きな変更を強いられることとなった。最終的に全チームがダブルディフューザーを搭載し、フォース・インディアがQ3に進出するほど全チームのパフォーマンスは拮抗した。ダブルディフューザーは、ただ装着するだけでは効果はなく、フロントエンドを含めたマシン全体のエアロコンセプトの変更が必要になる。実際マクラーレンのマシンは、見た目的にも前半と後半では別マシンのように姿を変えた。 (左がオーストラリアGP、右がアブダビGP)さらに改善を難しくしたのが、シーズン中のテスト禁止。それにより金曜日のプラクティスでしか、新パーツのテストができなくなった。マクラーレンは、リソースをフル活用し、全チームで最多と言えるパーツを持ち込み、バック・トゥ・バック・テストまでやってのけた。またレッドブルなどが、ダブルディフューザーのためにギアボックスに変更を加えたのに対し、マクラーレンはギアボックスには大きく手を入れずに改善を推し進めた。ギアボックスは4戦連続使用が義務付けられているため、レースごとに変更することはできないからだ。そして、マクラーレンはシーズン中の改善を2010年マシンへの布石と捉えた。では、2010年の勢力図はどうなるだろう。去年は最終戦までタイトル争いを繰り広げマシン開発が遅れた名門チームのフェラーリとマクラーレンが2010年を見据えてシーズンを過ごした点が興味深い。フェラーリは7月にF60の開発を終了。2010年マシンの開発にシフトした。実際、キミ・ライコネンがF60から最大限のパフォーマンスを発揮することに時間を費やしていたのに対し、負傷したフェリペ・マッサに代わったルカ・バドエルとジャンカルロ・フィジケラという“テストドライバー”は金曜日に2010年マシンのパーツのテストを進めていた。また、マシン開発に定評のあるフェルナンド・アロンソを獲得したことも後半以降のパフォーマンスに貢献するはずだ。逆に今シーズン、最後までタイトルを争ったブラウンGPとレッドブルがどのようなパフォーマンスをみせるかも興味深い。シーズン前半は圧倒的な強さをみせたブラウンGPだが、後半だけを見てみるとタイトル争いは、セバスチャン・ベッテル vs ルイス・ハミルトンだった。2007年からダブルディフューザーを前提にマシンコンセプトを固めてきたブラウンGPが、シーズン中に後付けしたレッドブルに追い越されたのだ。2010年は、タイヤの使い方が大きな要素になるのは間違いない。給油禁止により燃料タンク容量が変更されることで前後重量配分へのアプローチも変わってくる。またフロントタイヤの幅が狭くなることも、マシンコンセプトに大きく影響するだろう。今シーズンは、どうしてもフロントヘビーなマシン特性となった。そのためタイヤに厳しかったレッドブルには吉と出るかもしれない。シーズン中に進化をとげたマクラーレンとレッドブル、シーズンを捨てて2010年に備えたフェラーリ、そしてチャンピオンを獲得したブラウンGP。2010年も興味深い1年になるのは間違いない。
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