F1のCEOステファノ・ドメニカリは、米国で締結したApple TVとの放送契約が「世界中の放送局に警鐘を鳴らした」と語った。FOM(フォーミュラ・ワン・マネジメント)は先月、Appleと独占的な5年間の契約を締結。ドメニカリは、Appleが持つ多様なプラットフォームを通じてF1を新しい層に広げる機会があるとして、この提携を「自然な決断」だったと説明した。
「我々は世界的なスポーツであり、市場ごとに最適なパートナーと契約することが極めて重要だ」とドメニカリは投資家向け説明会で語った。「Appleと契約したことは、既存の放送パートナーにとって警鐘を鳴らす出来事となった。『我々もF1と関係を維持したい、さらに投資したい、次は何だ?』という反応が世界中で起きている」ドメニカリは、Appleとの提携を米国市場に限定する方針であることも明言した。「Appleはグローバルなブランドであり、彼らとの提携は注目を集めている。しかし、全世界をAppleだけでカバーするつもりはない。現時点では各地域での多様な放送契約の仕組みの方が、F1全体として強みがある」と語った。それでも、Appleとの契約がもたらした波及効果は「すでに世界中で大きい」と強調した。Appleとのパートナーシップは、米国でのF1人気を一段と拡大する狙いがある。「米国市場は我々の成長にとって非常に重要だ。Appleとの契約を選んだ理由は、F1のターゲット層と彼らのブランドが完璧に一致しているからだ」とドメニカリ。「Appleは単なるブランドではなく、社会的に影響力のある存在だ。F1のファン層は若く、ダイナミックで、マルチタスクをこなす世代だ。Appleとの提携はその特性に非常に合っている」彼はさらに、この提携によってF1のデジタルエコシステム全体が拡大していくと述べた。「Appleのプラットフォームを通じて提供できるコンテンツをさらに拡大していく。リスクよりもチャンスの方が圧倒的に大きいと判断した。彼らは新しい提案を次々と生み出す革新的な企業だ。F1の社会的関連性をさらに高めるために非常に重要なパートナーになる」と締めくくった。放送権戦略におけるF1の新段階ドメニカリの発言からは、F1がAppleとの提携を「単なる米国向け契約」ではなく、世界的な交渉カードとして活用していることがうかがえる。Appleという“テック界の象徴的ブランド”との提携は、F1のデジタル戦略における新しい信頼性の象徴であり、既存放送局への価格交渉圧力にもなる。実際、Sky SportsやESPNのような既存パートナーは、F1コンテンツの価値を再認識せざるを得ない状況に置かれている。Appleとの契約が「価格の基準点」を引き上げる効果を持つためだ。さらにApple側にとっても、F1は若年層・国際層に強いデジタル・マーケティング資産であり、Apple Vision Proなどの次世代デバイスとの連携も視野に入っている。米国重視の裏にある狙いF1がこの契約を「米国限定」と明言したのは、各国市場の放送構造を維持するためだけではない。むしろ、急成長中の米国市場で確固たる地位を築き、Netflixの『Drive to Survive』以降に広がったファン層を定着させる意図がある。米国では2026年のレギュレーション変更やラスベガスGPの定着を背景に、F1が「次の10年の成長基盤」として最重要市場に位置づけられている。Appleという象徴的ブランドと組むことで、F1は単なるスポーツ放送を超えた“文化的アイコン”としての地位を確立しようとしている。
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