ランド・ノリスが、激しい雨と強い日差しが入り混じる難しいコンディションの中、母国シルバーストンで行われた2025年F1イギリスGPを制した。レース中盤のセーフティカー導入に伴って、マックス・フェルスタッペンがスピン、さらにオスカー・ピアストリがリスタート時の違反で10秒のタイムペナルティを受けたことで、ノリスは勝利への道を切り拓いた。自身は一切ミスなく走り抜き、フィニッシュに向かって加速する中で地元ファンからの熱烈な歓声を受けながら、堂々のチェッカーフラッグを受けた。
ノリスにとってF1キャリア初の母国優勝は、少年時代から思い描いてきた夢の結実だった。マクラーレンにとっても歴史的な一日となった。ノリスはレース直後のパルクフェルメで感極まりながらこう語った。「信じられないほど美しい。自分がずっと夢見てきたすべてが詰まった勝利だ。チャンピオンを除けば、これ以上の感情や達成感、誇りはないと思う。ここは自分がF1を好きになった場所で、最初にテレビでF1を観たのがこのシルバーストンだった。当時は君(ジェンソン・バトン)を観てたけど、今日は自分の番だった。本当に信じられないレースだった。ストレスの連続だったけど、ファンの応援が今日の差を生んでくれた。心から感謝してる」決して楽な勝利ではなかった。変わりやすい天候に加え、セーフティカー導入や複数のタイヤ戦略判断が必要となる中で、ノリスは一度もペースを乱さなかった。「こういうとき、考えすぎるとよくない。何周も前から『何をしたらいい? 誰に手を振ろうか?』とか思ってたけど、実際には頭が真っ白になる。唯一のルールは『やらかすな』ってこと。それだけが頭にあった。最後の数周は観客席を見ながら、この瞬間を焼きつけようとした。次があるかなんて分からないから。でも、この記憶は一生の宝物になる。最高の達成感だ」レース直後の記者会見でも、ノリスは興奮を抑えきれない様子だった。「どこから話せばいいのか分からないけど、本当にスペシャルな一日だった。自分がF1を観始めたのはたしか2007年か2008年の雨のシルバーストンで、ルイス(ハミルトン)が勝ったレースだった。そのとき観客が総立ちで盛り上がっているのを観て、いつか自分もと思った。そして今日、それを自分の目で見ることができた。家族も友人も、兄弟も、両親も、祖父母もみんな来てくれた。これ以上に特別なことはないよ」レース中の判断にも冷静さが光った。タイヤ選択やペース管理での読みが、勝利を引き寄せた。「チームとして素晴らしい判断ができた。すべてのタイミングが完璧だったとは言えないけど、全体的にはすごく満足している。スリックに変えるのはもうちょっと早くても良かったかもしれないけどね。レース序盤はオスカーとマックスの争いを静観して、タイヤを温存した。でもそれが裏目に出たかもしれない。特に雨が強まったときは、ターン1や2、9でアクアプレーニングがすごかったし、本当に危ない場面が何度もあった。でも、そんな中でも集中して、チームと落ち着いて話し合えた。それが勝因だったと思う」レース中の無線では「信じられないほどエモーショナルだった」とも語っていた。「いや、涙は出なかったよ。出そうとは思ったけどね。自分が感情的になるときは泣くというより笑うタイプなんだ。ただただ純粋な喜び。何もかもが報われた瞬間だった。今日の朝はなぜか自信があった。“誰かが勝つんだ。自分にもそのチャンスはある”って思えた。普段はそこまで前向きになれないけど、今日は不思議とそう思えたんだ」シルバーストンの観客へも、心からの感謝を繰り返した。「最後の2周、ファンが総立ちで応援してくれてるのが見えた。あの瞬間って、他の誰にも味わえない。記者のみんなも感じられないだろうし、ドライバーの中でもほんの数人しか体験できない。とても自己中心的な瞬間だけど、ものすごく特別で、信じられないほど幸せだった」そして、今季ここまでの活躍の背景について聞かれると、自らの努力を強調した。「この数戦、調子はいい。でも“勢い”って言葉はあまり好きじゃない。一戦一戦を集中してやってるだけ。今回も、前回も、すごくタフな戦いだった。数秒じゃなくて、コンマ0何秒を争う戦いだ。だからこそ、自分の作業、感覚の改善、それを最大限に活かす努力が必要だった。もちろんマシンのアップグレードもあるけど、それよりも自分の努力の成果だと思いたい。勝てたのはその両方の力があったからだけど、やっぱり自分自身の進化も感じている」F1イギリスGPを制し、“現代のブリティッシュヒーロー”の称号を確かなものとしたノリス。母国ファンの声援に包まれたその瞬間は、彼のF1キャリアの新たな象徴となった。
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