2025年のF1シーズンで注目を集めるルーキー、レーシングブルズ所属のアイザック・ハジャー。開幕戦オーストラリアGPではフォーメーションラップ中にクラッシュするという衝撃的なデビューとなったが、そこからの立ち直りと進化を見せつけている。ハジャーは『F1 Beyond the Grid』の中で、その背景にあるメンタルの変化、フェルスタッペンへの敬意、そして将来の夢について率直に語った。
「メルボルンでのあの出来事は、自分にとって確かに大きな打撃だった。でも、それまでにカートからF1に至るまで、もっと大きな打撃は何度も経験してきた」とハジャーは振り返る。「自分はF1には行けないかもしれない、って思った瞬間が何度もあったし、自分を疑ったことも何度もある。それでも戦い続けるしかない。7歳からずっとそうしてきたから、もう慣れてるんだ」このような強さを支えているのが、レッドブル・ジュニアチームの推薦で関わることになったメンタルコーチ「マイク」の存在だという。ハジャーはF2時代の成績不振をきっかけに、半信半疑ながらマイクと関わり始めた。だが、次第に自身の精神状態を俯瞰することの重要性に気づいたという。「アブダビのテストで『お前、予選中の自分の状態を思い出せるか?』って聞かれたんだけど、正直に言って何も思い出せなかった。集中しすぎて、意識してなかったんだよね。そこから、“自分の心を管理する”という考え方にすごく惹かれた」F1デビュー戦でのクラッシュから立ち直ったハジャーは、精神的な強さと経験を積みながらF1という舞台に順応してきた。「フォーメーションラップのスタート直後で、タイヤはまったく温まっていなかった。しかも、そのとき僕はホワイトラインの上に乗っていて、あそこは特に滑りやすい場所だった。さらに1速に入っていた状態から2速にアップシフトした瞬間、トルクが抜けて挙動が乱れ、ステアリングの角度もついていたから、もう完全に制御不能だった」「スナップして滑った瞬間、“これはもう壁に行くな”って分かった。ブレーキを思いきり踏んだけど、どうしようもなかった。ただ“どうかクルマが壊れないでくれ”ってずっと祈ってた。それくらいの衝撃だった」レース後、同じようにクラッシュしたフェルナンド・アロンソやカルロス・サインツの姿に多少の救いを感じたが、それでも「どうしようもなかった」と振り返る。F1のプレッシャーF1に昇格して以降、メンタルの管理はより重要になった。「F2のときは、1回の失敗でF1の道が閉ざされるかもしれないというプレッシャーが常にあった。でもF1では、自分の実力を示し続けられれば、チームは残してくれる。だからプレッシャーの種類が違う」「F2では予選に向かうとき、いつも“結果を出さなきゃ”という焦りが強かった。小さなミスでも大きく評価が変わる気がして、自分を追い詰めてた。F1ではもちろん緊張はするけど、それは“これから戦いに行く”っていう前向きな緊張。質が全然違う」「F2はコントロールできない要素が多すぎる。戦略、マシントラブル、他人のアクシデント……そういう不確定要素の中で評価されるから、すごく苦しかった。でもそれを経験したからこそ、F1に来たときには“もう準備はできてる”って思えたんだ」予選でも段階的なビルドアップを意識しており、「Q1はまだ自信が足りないから、いつもギリギリでQ2に進出してる。でもそれが逆に自分のリズムを整える助けにもなってる。Q3では1回目のアタックで感触を掴んで、2回目で全部出し切る」と語る。「最後のアタックでは、いつもブレーキを遅らせて、より多くのグリップを使って、すべてを攻める。もちろん失敗することもあるけど、ほとんどの場合うまくいく。それがF1だと思ってる」フェルスタッペンの走りに学ぶこうしたメンタルの成熟とともに、ハジャーはF1の戦いに確実に順応している。彼がとりわけ注目しているのが、3度のワールドチャンピオン、マックス・フェルスタッペンの予選でのパフォーマンスだ。「マックスはQ1、Q2の時点ではあまり目立たないこともある。でもQ3のラストアタックで、必ずと言っていいほど何かを引き出してくる。プレッシャーの中でそれができるのが、本当にすごいと思う」「今のところ、彼のデータを直接見ることはできない。でもGPSトレースくらいなら確認できる。彼はライバルというより、基準。僕は主にミッドフィールドのドライバーを分析してるけど、マックスのレベルを見ておくのは自分の立ち位置を把握するうえで大事なことなんだ」そのフェルスタッペンと同じチームで走ること――すなわちレッドブルのセカンドシート獲得は、ハジャーにとって明確な目標となっている。「もちろん、誰だってあのシートは欲しい。でも僕はまず、今のポジションで価値を証明することに集中してる。チャンスが来たら? 絶対に掴みに行くよ」開幕戦のクラッシュから数ヶ月、ハジャーは精神と肉体を鍛え、着実にその存在感を高めている。彼が“フェルスタッペンの隣”に座る日も、そう遠くはないのかもしれない。