ホンダが2026年F1パワーユニットで深刻な苦境に直面するなか、FIAが導入する“救済措置”の詳細が明らかになってきた。最大1900万ドル(約30億円)の追加支出枠は一見すると大型支援に見えるが、その実態は単純な優遇策ではない。制度の核心は、“未来の開発予算を前借りする”仕組みにある。
今回の措置は、2026年F1レギュレーションに盛り込まれた「追加開発・アップグレード機会(ADUO)」制度に基づくものだ。これは、新規パワーユニットメーカーが競争力で大きく遅れた場合、一定の追加開発機会を与えるために導入された救済システムである。ホンダは最大級の支援対象になる可能性ADUOでは、基準となるメーカーから2%以上遅れていると判断された場合、追加アップグレードが認められる。2〜4%の遅れなら今季1回、翌年1回。4%以上なら今季2回、2027年にも2回の追加開発が可能となる。さらに、ベンチテスト時間も遅れ幅に応じて拡大される。最大230時間の追加ベンチテストベンチテスト時間は、性能差に応じて段階的に追加される仕組みとなっている。■ 2〜4%遅れ:追加70時間■ 4〜6%遅れ:追加110時間■ 6〜8%遅れ:追加150時間従来は、8%以上遅れているメーカーに対する追加時間は190時間が上限だった。しかし今回の制度変更で、その上限が撤廃された。これにより、10%以上遅れているメーカーには最大230時間の追加ベンチテストが認められることになる。現時点でホンダは、この“最大区分”に該当する可能性があるとみられている。“約30億円救済”の内訳話題となっている1900万ドル(約30億円)の追加支出枠は、2つの制度で構成されている。まず1つ目が、コストキャップ上限の調整による追加支出余地だ。これまでの制度では、2〜4%遅れのメーカーに300万ドル、8%以上遅れのメーカーに800万ドルまで追加支出が認められていた。しかし今回の変更で、10%以上遅れているメーカーには最大1100万ドルまで拡大されることになった。そして、さらに注目されているのが、追加800万ドル分の“ローン型”支援制度である。実態は“未来予算の前借り”この800万ドルは、単純に与えられる救済金ではない。ルール上では「救済措置」とされているが、実際には将来のコストキャップ枠を前倒しで使う仕組みとなっている。たとえば2026年と2027年に追加で800万ドルを使った場合、その分は2028年以降の3年間で返済しなければならない。しかも返済は単年集中が認められておらず、3年間に分散する必要がある。各年には総額の20〜50%を割り当てなければならず、会計処理で一気に帳消しにするような抜け道も禁止されている。つまりホンダは、短期的に大規模投資を行えば、その代償として将来の開発予算が圧迫されることになる。前倒し重視か 将来重視かルールでは、メーカー側がどれだけ前倒し支出を行うかを選択できる。たとえば、800万ドルを2026年と2027年に均等配分して使う方法もあれば、初年度に600万ドル、翌年に200万ドルという形で“前倒し重視”の投資を行うことも可能だ。ただし、その分だけ将来的な返済負担は重くなる。返済は3年間に分散しなければならず、1年で全額を返済することも認められていない。つまり、短期的な回復を優先すればするほど、後年の開発余力は削られていくことになる。FIAとライバル勢の“絶妙なバランス”今回の制度は、ホンダを一方的に優遇するものではない。ライバルメーカーは、ホンダがかつてマクラーレン時代の苦戦から立て直し、レッドブルとともにタイトル獲得へ到達した歴史を知っている。そのため、今回の制度設計では「短期回復のための支援」は認めつつ、「将来的な独走」にはつながらないよう制約が設けられた。ホンダにとっては、今すぐ開発を加速させて競争力回復を急ぐのか、それとも将来の開発余力を残しながら慎重に進めるのか、大きな戦略判断が迫られる。最初の重要な判断材料となるのは、次戦カナダGP後に予定されているFIAの性能評価だ。そこでホンダがどれほどの遅れと認定されるかによって、実際に利用できる救済措置の範囲が決まることになる。
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