ホンダのF1パワーユニットの信頼性の向上にはホンダジェットの航空エンジン部門の助けがあった。ホンダは、マクレーン時代の終盤からF1パワーユニットの設計を大幅に見直した。MGU-Hを大型化し、パワーアップを目指したが、それによってエンジントラブルが多発。1回目のグランプリで4基のパワーユニットが相次いで壊れたこともあった。
問題はMGU-Hのなかにあるシャフトだった。MGU-Hを大型化したことで、出力も向上したが、シャフトが長くなったことで深刻な問題が発生した。シャフトが長くなったことで、外からの振動が加わるとある回転数で大きくしなるようになったことが原因だった。その結果、軸の振動でベアリングが破損し、さらにシャフトが暴れまわることでパワーユニットが壊れた。ホンダF1のパワーユニット開発責任者を務める浅木泰昭は強い危機感を覚えたと語る。「これだけ壊れるエンジンでは開発もままならない。当然、勝負にもならない。車体のテストすらできない状況では、車体の開発にも迷惑がかかる。ちょっと戦える状況ではないという認識は持ちました」と浅木泰昭は振り返る。そこで浅木泰昭はホンダジェットのエンジンを開発する部門に助けを求めるろいう異例の決断をする。ホンダの航空機を開発する部門がF1に関わるのは初めてのことだった。航空エンジン開発を務める藁科直美は「自分たちが関わったことのないF1という世界で我々の技術が役に立つのなら是非やらせてくれという雰囲気でした。概ね、みんなが前のめりでした」と振り返る。航空機のターボファンジェットエンジンの仕組みはMGU-Hと構造が似ていた。藁科直美は、初めてMGU-Hを見たとき、トラブルの原因がすぐにわかったと語る。「長い軸があって両側にタービンがあって、ベアリングを支持する場所とかを見た時には『本当にこれ回ってたんですか?』というのが正直な気持ちでした」と藁科直美と語る。「レースになると壊れてしまうというのを聞いたときには『あぁ、やっぱり』というのが我々の第一印象でした」最大の原因は軸を支えるベアリングにあった。航空機部門はベアリングの位置や個数を変更し、さらに各箇所での設置方法を調整。また、シャフトを場所によって太さを変更するなどの改良を加えた。これによって軸が安定して回転するようになった。浅木泰昭は「ジェットに頼んだらすぐに直るかどうかというのは疑心暗鬼だった」と語る。「一発で直ったのはすごかったですね。びっくりしました。自分の会社ながら、わが社のなかには凄い技術力があるんだなという、正直凄いなと思いましたね」
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