FIAの次期会長選で、現職のモハメド・ビン・スライエムが無投票で再選される見通しとなった。対立候補が出馬に必要な「会長リスト」の要件を満たせず、制度上ほかの候補が立てない状況に陥っている。F1を統括するFIAのトップ交代が消滅する可能性が高まっており、ガバナンスと透明性をめぐる議論が再燃しそうだ。
FIA会長選挙をめぐる争いが新たな局面を迎えている。現職のモハメド・ビン・スライエムが12月12日の投票で再選を目指す中、対立候補が必要条件を満たせないことが判明し、彼が“無投票当選”する可能性が極めて高まっている。2期目を狙うビン・スライエムに対し、元F1国際審査委員長のティム・メイヤーが「FIA Forward」キャンペーンを掲げて7月から活動を続けてきた。また、最近になってローラ・ヴィラールとヴィルジニー・フィリポットの2名も立候補を表明していた。しかし、FIA会長選に立候補するには、10月24日までに「会長リスト」と呼ばれる候補者チームを正式に提出する必要がある。このリストには以下の11人が含まれなければならない。■ 会長候補本人■ 上院議長■ 自動車モビリティ・観光担当副会長■ スポーツ担当副会長■ さらに7名のスポーツ副会長この7名のスポーツ副会長は、世界モータースポーツ評議会(WMSC)の構成員として立候補資格を持つ人物の中から選ばれなければならず、かつ地域のバランスも求められる。具体的には、北米、南米、アジア太平洋、アフリカ、中東・北アフリカ(MENA)、そしてヨーロッパ2名の計7地域から1名ずつが必要だ。ところが、FIAが公表した29名のWMSC候補リストの中で、南米出身者はブラジルのファビアナ・エクレストン(元F1代表バーニー・エクレストンの妻)ただ1名のみ。しかも彼女はすでにビン・スライエム陣営の一員として名を連ねている。規定では1人の候補者が複数の会長リストに重複して掲載されることはできないため、他の候補は南米枠を確保できず、リストを成立させることが不可能となってしまった。さらにアフリカ地域から登録されたロドリゴ・ロシャ(モザンビーク)とアミナ・C・モハメド(ケニア)もビン・スライエム支持者とされており、ロシャはすでに彼の会長リストに名を連ねている。この状況により、理論上は選挙戦が続いているものの、対立候補が10月24日までに有効なリストを提出できなければ選挙戦は実質的に終了する。現時点では、他候補が条件を満たす可能性はほとんどない。なぜこのような事態が起きたのかは明確ではない。長年FIAに携わってきたメイヤーは選挙規則を熟知しており、南米地域のクラブと事前に連絡を取って候補を立てるよう働きかけていたとみられる。それにもかかわらず、ブラジル以外のクラブが候補を出さなかった、締切(9月19日)に間に合わなかった、もしくは申請が却下された可能性があるとみられる。なお、FIAの選挙規則では、WMSC候補者の資格最終判断は「指名委員会」が行うと定められている。立候補受付は6月中旬から開始されており、候補者が申請や確認を行うには十分な期間があったとされる。WMSC候補者の条件としては、選挙当日時点で75歳未満であること、職業的な誠実性に疑念を抱かせる経歴がないこと、FIAの定款を満たすクラブに所属していること、そして2025年国際競技カレンダーに最低1イベントを登録していることが挙げられている。FIAは中立性を保つため、個別の候補者に関しては一切コメントできないとしている。FIA会長選の制度的背景と構造的課題今回の事態は、FIA内部の制度的構造が現職有利に働くことを浮き彫りにしている。地域配分とリスト制という制度設計が、実質的に現職陣営の支援網を固定化しており、対立候補の出馬を阻む構造的ハードルとなっている。特に南米地域が唯一の候補を現職側に押さえられたことが決定的であり、制度上「無投票再選」という結果をもたらしかねない。FIA内部ではここ数年、ガバナンスや透明性の問題をめぐる議論が続いているが、今回のケースはその核心を突くものとなった。12月の選挙を待たずして、事実上の権力継続が確定する可能性が高い。Source: The Race
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