予選でクラッシュし、決勝も9位に終わったシャルル・ルクレールは「アゼルバイジャンの週末はこれ以上悪くならない」と思っていた。だがそこにカルロス・サインツJr.と“バン”が待っていた。フェラーリ時代にチームメイトだったルクレールとサインツは、スペイン人ドライバーがウィリアムズへ移籍した後も友情を続けており、今も一緒にグランプリへ移動することが多い
今回もバクーからモナコへ戻るフライトに搭乗した2人だったが、互いにまったく対照的な物語を抱えていた。サインツは予選でシーズンベストの2番手を獲得。Q3ではわずかな雨と2度の赤旗が影響し、そのうちの最初の赤旗はルクレールがターン15でフェラーリSF-25をクラッシュさせたことによるものだった。その結果、ルクレールはタイムを残せず10番手スタート。一方のサインツは2番手グリッドから完璧なレースをまとめ、ウィリアムズで初となる表彰台を獲得した。ルクレールは9位に沈み、フェラーリのペースに落胆。チームメイトのルイス・ハミルトンがチームオーダーを守らなかったことすら気にしないほどだった。しかし、それはまだ“最悪”の出来事ではなかった。バクーから帰路に就いた飛行機は嵐のためジェノバにダイバートし、2人と同行者たちは足止めを食らった。急いで帰宅したかった彼らは、自ら行動を起こした。ルクレールはSNSに動画を投稿。「バクーで本当に大変な週末のあと、これ以上悪くならないと思ったんだけど…」と話し始め、車がトンネルを抜ける映像に切り替えると、運転席にいたのはサインツだった。ウィリアムズで表彰台を手にしたサインツは笑顔で「俺たち、バンを運転してるんだ!」と声を弾ませる。笑いながらルクレールは尋ねる。「僕たち今どこ?」サインツは答えた。「イタリアの真ん中だ」ルクレール「なんで?」サインツ「嵐でニースに着陸できなかったから。イタリアの真ん中に降りて、バンを借りて、今モナコに向かってる」ルクレール「へえ、いいね」サインツ「2時間のドライブ、でも僕らなら1時間半で行ける」ルクレール「だめだよ!」と叫ぶ。サインツは「いやいや、絶対ないから」と否定した。レース後、ルクレールは真っ先にサインツの元へ駆け寄り、ウィリアムズでの初表彰台を祝福した。「本当に彼のことを嬉しく思う」とフェラーリのドライバーは語った。「僕たちはほとんどのレースに一緒に移動しているから、いろいろ話す時間がある。彼はシーズン序盤から本当に不運だったけど、それは決してスピードの欠如ではなかったと思う。むしろ運の問題だった。今日はそれを乗り越えたし、彼が表彰台に立つ姿を見られてとても嬉しい」この表彰台によってサインツはドライバーズランキング12位に浮上し31ポイントを獲得。一方チームメイトのアレクサンダー・アルボンは70ポイントを持っている。両者によって、コンストラクターズ選手権で5位ウィリアムズと6位レーシングブルズの差は29点に広がった。