アウディは2026年F1バーレーン・プレシーズンテスト初日、シェイクダウン仕様から大幅に姿を変えたR26を投入し、パドックを騒然とさせた。バルセロナで非公開のまま披露された“安全志向”のローンチ仕様からわずか2週間。サクヒールのガレージから姿を現したマシンは、もはや別物と言っていい攻撃的な空力思想をまとっていた。
水曜日朝にコースインしたR26は、単なるアップデート版ではない。設計思想そのものを一段階進めた、事実上の“第2形態”とも言える仕様だ。“極細”サイドポッドの全貌 ジオメトリーから再設計最大の衝撃はミッドセクション、とりわけ吸気口ジオメトリーの抜本的変更にある。まず吸気口の形状が根本から見直された。従来の横方向に広がるワイドなインレットは姿を消し、シャシー側面に沿うように配置された、よりナローで縦方向に高いインテークへと進化している。開口部は明確にインボード寄りへ移され、車体に密着するような構成となった。そこからボディワークは外側へとフレアし、ランプ状のアンダーカットを形成する。この形状により、吸気口を通過しなかった外側の気流はスムーズにフロア外縁部へと導かれる設計となっている。冷却と空力を同時に成立させる二重構造だ。さらにサイドポッド上面にはチャンネルが追加され、気流が車体後方へ滑らかに抜ける経路が明確に構築されている。この流路を短縮することで、ディフューザー上面へ移行する際のエネルギーロスを抑制する狙いがあると見られる。乱流を減らし、より高エネルギー状態でリアへ気流を供給する思想だ。サイドポッドは2本のサイドインパクトストラクチャーに沿うように“シュリンクラップ”されている。上側クラッシュ構造付近、ミラーマウント横には小さなブリスターが確認でき、下側構造に沿った明確なアンダーカットランプも視認できる。構造物の存在を最小限の外形変化で包み込みながら、外形空力を優先したパッケージングとなっている。その視覚的インパクトから、2022年にメルセデスが投入した“ゼロポッド”コンセプトを想起させるとの声も上がった。当時は極端な絞り込みがセットアップの難しさを招いたが、2026年レギュレーションでは空力条件やフロア構造の前提が異なる。アウディは新世代フロア設計と内部レイアウトを一体で最適化し、過去の失敗例とは異なる成立条件を見出した可能性がある。冷却安定性とタイヤウェイク対策吸気口の位置変更は空力効率だけでなく、冷却安定性にも寄与するとみられる。フロントタイヤが生み出す乱流、いわゆるタイヤウェイクは、吸気口を通過する空気の質量流量を不安定にする要因となる。吸気口をよりインボード側へ配置することで、この乱流の影響を受けにくくし、安定した冷却気流を確保する意図がある。コーナリング時にも利点がある。サイドポッド自体がタイヤから剥離する気流の処理をより主体的に担えるようになり、流れの制御自由度が高まる。公開画像から吸気口下部の詳細までは断定できないが、第一印象としてはバージボード的なアウトウォッシュ効果を誘発し、フロア外縁部やウェイクボード周辺の流れを整える設計である可能性もある。ただし、これほどまでに絞り込んだレイアウトは明確なリスクも伴う。吸気面積の縮小は冷却マージンの低下と直結する可能性がある。高温環境のバーレーンでこの仕様を投入したことは、アウディが冷却パッケージに相当な自信を持っていることの表れとも受け取れる。フロントウイングとアクティブエアロの新解変更はフロントエンドにも及んでいる。アウディはノーズ下中央の単一アクチュエーターではなく、ツインのアクティブエアロ用アクチュエーターを採用した。これによりアクチュエーターハウジングによる気流ブロッケージを抑えつつ、ノーズをより低く設計することが可能となる。さらに、フロントウイングのボルテックストンネル上部にはアウトウォッシュフィンが追加されている。エンドプレート側ウイングレットとの相互作用を強め、フロントタイヤ周辺の気流をより外側へ回り込ませる効果を高める狙いがある。フロントで整流し、サイドポッドで制御し、フロア外縁へ送り、ディフューザーへ高エネルギー状態で届ける。今回のR26は、その一連の流れを一体設計として再構築したマシンだ。攻め続ける開発姿勢マッティア・ビノット率いる技術陣とジェームス・キーの設計チームは、水曜日の走行に合わせて完全新設計のフロントウイングも投入した。午前はガブリエル・ボルトレトが刷新版R26の初走行を担当し、午後はニコ・ヒュルケンベルグがデータ収集を引き継いだ。他チームがメルボルン仕様に近づいていると示唆するなか、アウディは急進的な進化を選択している。来週の第2回テストを経て、3月8日の開幕戦オーストラリアGPまでにさらなる変貌を遂げる可能性もある。この“極細ウエスト”の賭けが表彰台への近道となるのか、それとも冷却やバランスの難しさが課題となるのか。答えはまだ出ていない。しかし少なくとも今、アウディを「ただの新規参戦チーム」と見る者はいない。R26は設計思想そのもので、2026年F1新時代の議論の中心へと躍り出た。
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