アストンマーティンは、2026年F1マシン『AMR26』の発表イベントで明確なメッセージを発した。重要なのはメルボルンでの立ち位置ではなく、シーズンを通じた開発の伸びしろという点だ。ホンダとのワークス体制初年度、そしてエイドリアン・ニューウェイが初めて設計を手がけたマシンという話題性とは裏腹に、チームは意図的に“即効性”よりも“成長曲線”を強調した。この姿勢は、現在のチーム状況とAMR26の設計思想を如実に映し出している。
「エグゼクティブ・チェアマンとして、この瞬間が意味するものを誇りに思う。我々を定義するのは、コース上で起きることだけではない。F1は勇気を求めるスポーツであり、並外れたものを築こうとする者に報いる」とローレンス・ストロールは語った。新キャンパス、新風洞、そしてホンダとのワークス契約。さらにAMR26はニューウェイが設計した初のマシンだ。表面的には“すべてが揃った”体制に見える。「施設は他の追随を許さない。ローレンスのビジョンと投資によって、間違いなくF1で最高の施設が整った。それは我々にとって大きな資産だ」とニューウェイは述べた。しかし、発表の場で繰り返されたキーワードは“開発”だった。「今年はレギュレーションが変わり、パワーユニットも複雑になる。全チームにとって開発スピードは非常に高くなる」とフェルナンド・アロンソは語った。「だから僕はバーレーンや最初の数戦をあまり気にしていない。良いシーズンか悪いシーズンかは、前半よりも後半で決まると思っている。重要なのはマシンを理解し、7戦目や10戦目、12戦目に向けて明確な開発の道筋を持つことだ」ランス・ストロールも、開幕時点での差が大きくなる可能性を示唆した。冗談交じりにジョージ・ラッセルがメルボルンで30秒差勝ちをするかもしれないと語ったが、その裏には現実的な認識がある。ホンダとの再構築と“時間”という要素この長期視点の背景には、ホンダとの関係性もある。ホンダは2021年末でのF1撤退を決断した影響により、人員の再配置を余儀なくされた。その後、アストンマーティンとの契約を受けてプロジェクトを再構築している段階にある。「我々のエンジニアは頻繁にシルバーストンへ飛び、アストンマーティンのエンジニアも日本で働いています。これは挑戦です。移動コストの面では欧州メーカーより不利かもしれません」と渡辺康治は語った。「しかし時差は利点にもなります。日本の業務終了時に質問を送れば、翌朝には回答が届いています。いわば24時間体制の開発です」圧縮比を巡る議論など不確定要素も残るなか、パワーユニット側が本格的に最適化されるには時間がかかる可能性もある。「我々は多くの情報を持っていない。彼らが少し遅れているというメッセージは聞いている」とフェルナンド・アロンソは語った。「でもこれは長期戦だ。仮に少し後れを取ってスタートしても、追いつく時間は十分にある」ニューウェイが選んだ“開発余地重視”の設計思想この“後半重視”の思想は、AMR26の設計にも色濃く反映されている。新風洞の立ち上げ時期やガーデニング休暇の影響により、ニューウェイが本格的に作業を開始できたのは比較的遅かった。その結果、バルセロナで走行した仕様はあくまで第一段階にすぎないという。「今年は膨大な開発が行われるだろう。多くのチームで、バルセロナで走らせたマシンとメルボルンでレースをするマシンはかなり違うはずだ。その流れはシーズン中も続くだろう」とニューウェイは述べた。「我々は開発ポテンシャルを多く持つマシンを作ろうとした。最初からウインドウ内で最適化されているが、開発余地のないクルマは避けたかった」彼が“基礎”と呼ぶのは、マシン全体のパッケージング、重量配分、そしてフロントとリアのサスペンションだ。とりわけリアまわりの設計はライバルからも「極端」と評されるほど攻めたものになっている。「まずホイールベース上のどこに質量を配置するかという全体パッケージから始まる。それがフロントとリアのサスペンションへとつながる。両者は気流場の制御において極めて重要な役割を果たす」もしこの“基礎”が正しければ、AMR26はシーズンを通じて大きく進化できる土台を持つことになる。開幕戦での順位よりも、どれだけ伸びしろを確保できているか。アストンマーティンとホンダの期待値管理は、弱気ではなく、設計思想と開発戦略に根ざした現実的な選択であることを示している。そしてその核心にあるのが、エイドリアン・ニューウェイの“開発余地を最大化する”という設計哲学だ。
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