F1が2026年シーズンに向けて「2回のピットストップ義務化」を検討している。タイヤ戦略の単調化が進む現状を打開する狙いで、タイヤサプライヤーのピレリも「ショー向上には賛成」と前向きな姿勢を示した。一方で、ピレリのマリオ・イゾラは「課題も多い」と慎重な見方も示している。新ルールが戦略の多様化を生むのか、それとも逆に一様化を招くのか──2026年のF1は“戦略バトル”の新時代を迎える可能性がある。
F1が2026年に向けて再び「2回のピットストップ義務化」を議題に挙げている。現在の1ストップ中心の展開に変化をもたらし、戦略的多様性を復活させる狙いだ。タイヤサプライヤーのピレリもこのアイデアに前向きだが、実現には多くの課題があると指摘している。メキシコGPでは久々に戦略の分岐が見られたが、ここ数戦の大半は1ストップで決着している。ジョージ・ラッセルは「F1はターン1までのレースになってしまっている」と語り、ピット戦略の単調化を問題視した。今年のピレリタイヤは耐久性が高く、ドライバーがプッシュできる一方でデグラデーション(劣化)が少なく、戦略の幅を狭めているという。ピレリのイゾラ「チームは常にリスクを避けた戦略を取る」ピレリのモータースポーツ責任者マリオ・イゾラは、現状をこう説明する。「チームは常に持っている条件を最大化しようとする。つまり、ピットストップの回数を減らすことだ。ピットではミスをするリスクがあり、コースに戻った時にトラフィックに捕まってタイムを失う可能性もある。彼らはショーのことなど気にしていない」そのため、F1では一部の関係者から「2ストップを義務化すべき」との提案が出ており、マックス・フェルスタッペンもバクーで「“C6”のような使えないタイヤを持ち込むくらいなら、2ストップを義務化した方がまだマシだ」と発言している。イゾラはこう述べる。「我々はショーを良くするための方法を探している。2ストップの方が予測不能性が高くてショーには良いと思う。ただし、規則として義務付けない限り、それを強制することはできない」メキシコGP後の会議で再浮上 F1委員会でも議論へこの議論は最近再び勢いを増し、メキシコGPのドライバーズブリーフィングでも話題に上がった。FIAによると、この件は今週のスポーティング・アドバイザリー・コミッティ(SAC)で正式に議題となり、さらにF1委員会でも検討される見通しだ。イゾラは過去にもシミュレーションを通じて複数の選択肢を分析したと説明する。「チームに対して、特定のコンパウンド配分を想定したときの予測戦略を提出してもらったが、結局ほとんどのチームが同じ戦略に収束してしまった。例えばソフトが5周、ミディアムが20周、ハードがもっと長く持つとなると、みんな同じ動きをする。制約を増やすほど、戦略の多様性は逆に減るリスクがある」「2ストップでも単調になる可能性」ピレリが示す懸念イゾラは「ピット回数が増えればアンダーカットのチャンスは増えるが、必ずしもバリエーションが増えるとは限らない」と語る。「最も面白いレースは、2ストップが有利でも1ストップを敢えて選ぶチャレンジングなケースがあるときだ。昨年のモンツァでシャルル・ルクレールが1ストップで勝ったり、スパでジョージ(ラッセル)が2ストップで勝負したような展開だ。だが、そうしたことは毎回起きるわけではない」ピレリとしては、もし2ストップを義務化するなら「異なるコンパウンド使用の義務を撤廃する」案も選択肢の一つと考えている。「2ストップでも、どのコンパウンドを使っても良いようにすれば、戦略の幅は広がる。ミディアム3本で走ってもいいし、後方スタートならハードで長く引っ張る選択もある。中団ならソフトで序盤に順位を上げる手もある。多様な組み合わせが生まれるはずだ」2026年以降の新レギュレーションとの兼ね合いも鍵F1側は現段階ではあくまで「アイデアの初期検討段階」としており、2026年からの新規定導入後にクルマ同士の接近戦がしやすくなるなら、無理にルールを加える必要はないという声もある。イゾラは慎重にこう結んだ。「2026年は車両も大きく変わる。何が起きるか分からない。もし新しい車で接近戦が増えるなら、わざわざルールを変える必要はないかもしれない。我々は今、良いチャンピオンシップを持っている。だからそれを壊すリスクを負うべきではない」現実的な選択肢は「段階的なテスト導入」かイゾラは自身の経験から、いきなり制度導入するよりも「複数のレースを選び、各チームにシミュレーションを依頼して反応を見る」段階的な検証を提案している。実際、2023年のカタールGPでは安全上の理由で2ストップが義務化され、極限状態の中でもドライバーがプッシュし続ける展開となり、リバティ・メディアはその“ショー効果”を高く評価した。一方で、今年モナコでの実験は失敗に終わっており、単に義務化するだけでは面白さが保証されないことも明らかになっている。F1ハイブリッド分析:2ストップ義務化で何が変わるのか現状のF1はタイヤの耐久性が高すぎることで戦略の幅が狭まり、結果としてレース展開が固定化されている。ピレリが指摘するように、チームはリスクを最小化し、1ストップを最適解として選ぶ傾向が強い。2ストップ義務化はその傾向を一時的に変える可能性があるが、「全チームが同じ戦略を採る」リスクを完全に排除するわけではない。むしろ、制約を増やすほど創造的な戦略は減る可能性もある。したがって、実際に導入されるとしても、イゾラの提案どおり「限定的なイベントでの検証→段階的拡大」という慎重なステップが現実的だろう。2026年の新世代マシンが実際にどれほど接近戦を可能にするか──その答え次第で、この“2ストップ義務化論争”の行方も変わってくる。
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