2026年F1シーズン序盤、メルセデスのマシン「W17」に搭載されたフロントウイングの挙動がパドックで大きな議論を呼んでいる。中国GPで確認された動きは、レギュレーションの“意図”を回避している可能性があるとして、FIAによる精査が進められている。発端となったのは、フロントウイングの開閉が単一動作ではなく“2段階”で行われているように見える点だ。フェラーリはすでにFIAへ照会を行ったとされ、合法性の判断が今後の勢力図を左右する可能性もある。
2段階で動くフロントウイングの仕組み技術分析によれば、メルセデスのフロントウイングは通常のように一気に閉じるのではなく、2つのフェーズに分かれて動作しているとみられている。最初のフェーズでは、およそ400ミリ秒の高速動作でウイングが中間位置まで移動する。この段階はFIAのセンサーが“完全閉鎖”と認識する範囲内に収まっている。その後、より遅い動きで最終的な空力ポジションへと移行するが、この動作は監視対象の時間枠外で行われる可能性がある。中国GPの映像でも、ウイングが一度中間角度に移動した後、遅れて最終位置に到達する様子が確認されており、この“分割動作”が規則の抜け穴になっているとの見方が強まっている。狙いはブレーキング時の空力バランス制御このシステムの本質は、単なる空力効率ではなく“挙動の安定化”にあると考えられている。通常、ブレーキング時には荷重が前方へ大きく移動し、空力バランスもフロント寄りに偏る。その結果、リアのグリップが低下し、不安定な挙動を招きやすい。メルセデスのW17はこの問題に対し、段階的なウイング制御で対応している。ブレーキング開始時にはリアのアクティブエアロが即座にオフになる一方、フロントは完全には閉じず、中間ポジションに留まることでフロントダウンフォースの急激な増加を抑制する。その後、減速が進むにつれてフロントウイングが徐々に閉じ、空力バランスが段階的に前方へ移行することで、ドライバーはより自然にターンインへ移行できる。この挙動は上海のヘアピン(高速域からの強い減速が必要なコーナー)で特に効果を発揮するとされ、コーナーごとに動作特性を変えている可能性も指摘されている。コーナーごとに異なる制御の可能性短いブレーキング区間では、ウイングはより素早く閉じられ、即座にフロントの安定性を確保する。一方で長い減速区間では、段階的な動作によりリア寄りのバランスを維持しつつ、徐々に理想的な姿勢へと移行する。この制御がどのように行われているかは依然として不明で、GPSなどを用いた能動制御の可能性や、空力負荷や速度に応じた受動的な仕組みの可能性も議論されている。FIAの判断は“合法か抜け穴か”問題となるのは、ウイングの開閉が400ミリ秒以内に完了しなければならないというレギュレーションとの整合性だ。技術的には、最初の動作が規定時間内に収まっていれば“合法”と解釈される余地がある一方で、全体として800ミリ秒近い動作時間となる場合は、規則の趣旨から逸脱している可能性もある。現時点でFIAは最終的な判断を下しておらず、詳細なデータ解析を進めている段階にある。ただし、これほど視認性の高いシステムをあえて違法状態で運用するとは考えにくく、メルセデスが巧妙に規則の範囲内で最大限の効果を引き出している可能性も否定できない。この可変エアロの挙動が正式に認められるのか、それとも規制の対象となるのか。今後の裁定は、2026年F1シーズンの技術戦争に大きな影響を与えることになりそうだ。