F1のVSC規則に変更は必要? ノリスがスペインGPで勝利を失い議論再燃
F1スペインGPでは、バーチャル・セーフティカー(VSC)の導入タイミングがレース結果を大きく左右した。首位を走っていたランド・ノリスは、VSCによる恩恵を受けてピットストップを行う機会を逃し、それまで手中に収めていたかに見えた勝利を失った。
偶然にもVSCが導入された時間帯がキミ・アントネッリに大きなアドバンテージをもたらしたことで、VSCの運用について、より明確な規則を設けるべきなのかという議論が再び浮上している。
ノリスだけがVSC下でピットに入れず
F1スペインGPでノリスはアントネッリに6秒のリードを築き、快適に首位を走行していた。しかし、ランス・ストロールのアストンマーティンがエスケープエリアで停止したことでVSCが導入された。
VSCは、フルセーフティカーを導入して隊列をひとつにまとめるほどではない状況で使用される。全ドライバーに指定されたデルタタイムまで速度を落とすことを要求し、コース上のギャップを基本的に維持しながら、マーシャルが安全に車両を回収できるようにする仕組みだ。
だが、ノリスにとってVSCのタイミングは最悪だった。VSCが導入されたとき、ノリスはすでにピットレーン入口を通過し、最終コーナーに差しかかっていた。
一方、後方を走っていたアントネッリやマックス・フェルスタッペンはピットに入ることができた。VSC下ではコース上の速度が制限されるため、通常のレーススピードで走行している状況よりもピットストップによるタイムロスが小さくなる。
マクラーレンは次の周にノリスをピットへ呼び込んだ。
ところが、その間にストロールのマシン回収が完了。ノリスが最後から2つ目のコーナーに差しかかったところでVSCが解除された。
その結果、ライバルたちがVSC下でピットストップを済ませたのに対し、ノリスは通常のレーススピードに戻った状態でピットストップを行うことになった。
このタイム差によってノリスは首位から4番手まで後退。わずか数秒の間に勝利の可能性を大きく失い、そこから挽回を強いられる展開となった。
マクラーレンが取れる選択肢はほとんどなかった。VSC解除からピットレーン入口までにはノリスにステイアウトを指示できるだけの時間はあったものの、ノリスによればミディアムタイヤはすでにピークを過ぎており、いずれにしても交換が必要な状況だった。
ノリスは最終的に3位まで挽回し、終盤にはフェルスタッペンにプレッシャーをかけた。レース後にはライバルたちを祝福した一方、VSCによって勝利を失ったことへの悔しさも隠さなかった。
「今日はとにかく信じられないくらい運が悪かった」
「グリッド全体で、ピットストップをするチャンスがなかったのは僕だけだった。それはただ不運だった」
「これまでもレースではこういうことがあったし、過去には僕がそれで得をしたこともあれば、損をしたこともある。それもレースだ。でも、勝利を争っているときにはなかった。単純にこれが原因で勝利を失ったのは、おそらく初めてだと思う」
VSCの最低継続時間を設定すべきか
VSCは、マーシャルの安全を確保するためにレースコントロールが利用できる重要な手段である。しかし、その導入と解除のタイミングによってレース結果が大きく左右されることがあり、今回が唯一のケースというわけでもない。
今年のバルセロナでのレースでも似た状況があった。
ルイス・ハミルトンは42周目にVSC下でピットストップを行い、通常のレース状況でピットストップを済ませていたメルセデスのジョージ・ラッセルに対してアドバンテージを得た。それがハミルトンの勝利につながった。
バルセロナでも、VSCが最初に導入された時点でハミルトンはすでにピット入口を通過していた。しかし、VSCが十分に長く続いたため、フェラーリは次の周にハミルトンをピットへ入れることができた。
つまり、バルセロナのハミルトンとマドリンクのノリスが置かれた状況は基本的に似ていた。それでも結果が大きく異なったのは、VSCが継続した時間に差があったためだ。
そこに特別な意図があったわけではない。偶然にもどちらも停止したのはアストンマーティンのマシンだったが、バルセロナでは車両の処理にマドリンクより長い時間を要したという違いがあった。
フルセーフティカーとは異なり、VSCには最低継続時間を定める規則はない。
規則では、レースディレクターがVSCを終了しても安全だと判断すると、全競技者に「VSC ENDING」のメッセージが送られ、その10~15秒後にFIAライトパネルの「VSC」がグリーンに変わり、ドライバーは直ちに通常走行へ戻ることができると定められている。
したがって、運という要素が入り込むことは避けられない。VSC規則を変更すべきかと尋ねられたノリスも、それを認めた。
「これについては、これまで何年にもわたっていろいろなドライバーが何度も話してきた」
「何かを変更すれば、おそらく必ずデメリットも出てくると思う。難しい問題だ。さっきも言ったように、過去にはこれで勝ったこともあるし、負けたこともある」
「シーズンを通して考えれば、それが良いことなのか悪いことなのかを判断するのは難しい。長い目で見れば、おそらく均等になる」
「もちろん、今回は勝利を失ったから余計につらい。今日はドライバーとして、これ以上できることは文字どおり何もなかった。ポールを獲って、レースをリードして、自分ではコントロールできないことで勝利を失う。それがレースの勝敗を決める方法であるべきではないと思う」
「みんなもそう思ってくれると思う。でも、これもレースだし、実際に起きたことだから文句を言うことはできない。腹を立てることはできるけど、文句は言えない」
「最低1周継続」か「ピットレーン閉鎖」
ノリスは、VSCによる条件を全ドライバーにとってより公平にするため、いくつかの方法を検討できると考えている。
「過去にも何度か話し合ってきたから、できることはある。少なくとも1周はVSCを維持して、全員にピットストップをする機会を与えるとか、あるいはピット入口を閉鎖して、パンクなどの場合を除いて誰もピットに入れないようにするとかね」
「だから、もっとシンプルで、全員にとって公平にする方法はいくつかあると思う。でも、それはもっと大きな議論になる。僕ひとりが要求できるようなことではない」
「ドライバー全体としては、みんなが望んでいることだと思う。でも、いろいろな要素が絡んでくる。雨が降っていてVSCになり、スリックを履いていた場合はどうするのか。ピットに入れるのか、入れないのか。複雑なテーマだ」
「でも、ドライバー全員で話し合えば、みんなが求めているものは同じだと思う。それは全員にとっての公平性だ。もちろん今日は僕が不満を言っている」
「次のレースでは僕が恩恵を受けて、それで勝つかもしれない。だから受け入れなければならない。でも、もう誰にもこんなことが起きないでほしい。こういう形でレースを失うべきではないからね」

ステラ「SACで議論する価値はある」
マクラーレンのチーム代表アンドレア・ステラも、この問題をスポーティング・アドバイザリー・コミッティー(SAC)で取り上げる価値があるとの考えを示した。SACは、スポーティングレギュレーション変更に向けた議論の最初の段階となる。
「個人的な意見を言えば、私自身も何が正しいのか迷っている」
「全員が同じコース状況を経験するまで十分な時間を確保することが正しいのか。例えば、VSCを最低でも丸1周継続させるという方法だ。あるいは、すべてを運に任せて、あるときは幸運で、あるときは不運というままにするのか」
「私自身にも答えは分からない。ただ、一般的にこうした議論をする適切な場所は、有名なSAC、スポーティング・アドバイザリー・コミッティーだ。このテーマが議題に加えられ、そこで話し合われる可能性はある」
「ただし変更するのであれば、SACを通し、次にF1コミッションを通し、最終的にスポーティングレギュレーションへ反映しなければならない」
「F1やFIAの関係機関から『これを変えなければならない』という大きな動きがない限り、比較的長いプロセスになると考えている」
「ただ、競技者として現時点で私がここで結論を出すのは適切ではない」
マクラーレンはVSCを予測できたのか
マクラーレンが検証する余地があるとすれば、エスケープエリアに停止したアストンマーティンを見た段階で、VSC導入を予測できたかどうかという点だ。
メルセデスはアントネッリでそれを実行した。ノリスとの差が6秒あったことを利用して、アントネッリにさらに速度を落とすよう指示し、黄旗からVSCへ切り替わった場合に対応できる可能性を最大化した。そして実際にレースディレクターはVSCを導入した。
一方、マクラーレンには判断する時間がはるかに少なかった。VSC導入を予想してノリスをピットに入れたとしても、実際には黄旗のままだった場合、逆に大きな損失を被る可能性があった。
「エンジニアたちと確認する必要がある。VSCになることがある意味で明白だったのか、それなら事前に動くべきだったのかを検証したい」とステラは語った。
「ここでの問題は、極めて慎重にならなければならないことだ。VSCでなければピットストップには27秒かかる」
「だから判断を間違えれば非常に大きなペナルティになる。首位から不必要にピットに入り、その結果、勝利を失うことになる」
「したがって、良い原則は、事実に対して、つまり実際のコース状況に対して対応することだ」
「ただ、今回のような状況ではVSCになることが単純に明白だったのかどうかについて、必ず確認する。現時点では答えることはできない」
今回のF1スペインGPでは、VSCが安全確保のために不可欠な仕組みである一方、その継続時間によってピットストップの損得が大きく変わるという課題が改めて浮き彫りになった。最低1周の継続やVSC中のピットレーン閉鎖など複数の案が考えられるが、雨天時や緊急のタイヤ交換なども含めた検討が必要となる。ノリスの勝利を左右した一件をきっかけに、今後SACで具体的な議論へ発展する可能性がある。





