F1が新演出「グリッド・ギグス」導入 レース前に音楽ライブ開催

現地ではアメリカン・エキスプレス協賛による開幕ショーが予定され、カントリー歌手ドレイク・ミリガンがグリッド上でパフォーマンスを披露する。
この企画は、現地観客にさらなる体験価値を提供する狙いで設けられたもので、すべてのグランプリで行われるわけではない。現時点ではラスベガスGPでも同様の演出が計画されている。フォーミュラ・ワン・マネジメントは「音楽とモータースポーツを融合させたユニークな体験」であり、7.5百万人が視聴した「F1 75 Live」から着想を得たと説明している。
もっとも、このコンセプト自体は全く新しいわけではない。シンガポールGPでは元スパイス・ガールズのDJメル・Cがグリッド上で短いセットを披露しており、ライブ音楽の導入は近年ますます一般的になっている。今回の「グリッド・ギグス」はそこに商業スポンサーが加わる形となる。
放送演出への批判と“ショー化”の波
この新しい試みは、F1の放送演出をめぐる議論が続く中で登場した。
シンガポールGP後には、テレビ演出が「コース上のアクションよりもガレージや観客を映すことに重点を置いている」との批判が上がった。
ウィリアムズのカルロス・サインツはスペインのラジオ番組『El Partidazo de COPE』で次のように語っている。
「最近は少しトレンドになっているようだ。たぶん以前は、僕たちの彼女や有名人のリアクションを映すことで視聴者の関心を引けていたのかもしれない」
「でも、もしオーバーテイクや緊迫した瞬間が起きているなら、その競技を尊重して、常にレースの重要な場面を映すべきだ」
同様の苦言は今季開幕戦バーレーンGPでも聞かれており、オスカー・ピアストリのチェッカーフラッグシーンが小窓表示になるなど、演出方針には議論が続いている。

F1の商業化と“エンタメ化”の方向性
F1の商業権は、リバティ・メディアが2017年にCVCキャピタルから80億ドルで取得して以来、価値が急上昇している。
それに伴い、スプリントレースや24戦に拡大したカレンダーなど、数々の新要素が導入されてきた。
今回の「グリッド・ギグス」もそうした流れの一環であり、レース前後の時間を“ショー”として演出することで新しい層のファンを取り込む狙いがある。
一方で、純粋なモータースポーツとしての本質を重視するファンからは「ショー化が行き過ぎている」との懸念も強まっており、F1が今後どのようなバランスを取るのかが注目される。
分析:F1は“スポーツ”をどこまでエンタメ化できるか
「グリッド・ギグス」は、F1がエンターテインメントとしての側面をさらに強調する最新の取り組みだ。
Netflixの『Drive to Survive』、スプリント導入、ラスベガスGPのナイトショーなど、リバティ・メディア体制のF1は「スポーツをショーとして見せる」方向を明確にしている。
だが、カルロス・サインツが述べたように、演出が競技そのものの価値を覆ってしまう危険もある。
観客を魅了するショーとしてのF1と、究極の競技としてのF1──その二面性の狭間で、F1は今まさに新しいアイデンティティを模索している。
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