HRC渡辺康治社長 アロンソの2027年F1継続を熱望「ホンダにとって極めて重要」

2026年F1オランダGPの週末、渡辺康治社長はスペイン紙『Mundo Deportivo』の独占インタビューに応じた。
そこで語られたのはアロンソの将来だけではない。ホンダが直面しているPU開発の遅れ、スペック2投入の意味、ADUOを活用した挽回、人材不足の解消、レッドブルとのプロジェクトを経験した重要なエンジニアの復帰、エイドリアン・ニューウェイとの協力、2027年への見通し、さらには2031年以降のF1エンジン規則まで、現在と将来のホンダF1プロジェクトについて幅広く明かした。
セナとフェルスタッペンに続く新たな挑戦
ホンダはF1の歴史のなかで、アイルトン・セナ、そしてマックス・フェルスタッペンとともに困難な挑戦を乗り越え、大きな成功を収めてきた。現在はアストンマーティン、そしてアロンソとともに新たな挑戦に臨んでいる。
渡辺康治社長は、そうした困難そのものがホンダを強くしてきたと説明する。
「基本的に、一つひとつの挑戦が私たちをより強くしてきました。そして、あらゆる成功の裏には数え切れないほどの挑戦があります」
「セナのときもそうでしたし、マックスのときもそうでした。成功は一つひとつの挑戦を乗り越えた先にやってきます。そのことを私たちの誰も疑っていません」
現在は日本のHRC Sakura、英国のHRC UK、そしてシルバーストンに本拠を置くアストンマーティンが一体となり、競争力向上へ向けて作業を続けている。
「HRC Sakura、HRC UK、そしてシルバーストンのアストンマーティンのメンバーが一緒になって、困難を乗り越えるために取り組んでいます」
「私たちはまさに挑戦の真っただ中にいます。そして、成功へ向かっているところです」
ホンダ新PU「何をすべきなのかは分かっています」
アロンソはホンダが現在抱えている問題を解決し、トップレベルのPUを作り上げることについて「時間の問題」だとして、その技術力への信頼を公に示してきた。
ホンダはその期待に応えるため、開発のペースを上げている。渡辺康治社長によれば、少なくとも改善すべき方向性について迷いはない。
「私たちは今、そこへ到達するまでの時間を短くする、そのプロセスの真っただ中にいます」
「パワーユニット、つまりエンジンと電気系について、開発で何をしなければならないのかは分かっています。ですから今は、それを実現するために取り組んでいます」
ただし、どれほどの時間が必要なのかについては慎重だった。
「正確にいつとは言えません(笑)」
「では、ホンダが最高のエンジンのひとつを作れるようになるのはいつだと思うか」と改めて問われても、答えは変わらなかった。
「これは誰に聞かれても同じ答えになります。いつになるのかは言えません」
スペック2は「状況改善への最初の一歩」
その一方で、オランダGPで投入した新仕様PU、いわゆるスペック2は、ホンダにとって重要な転換点になる。
2026年序盤から苦戦してきたホンダにとって、このアップデートは単純な性能向上だけを意味するものではない。今後トップレベルへ近づいていくための開発の出発点でもある。
「もちろんです。今回のスペック2は、状況を改善するための最初の一歩です」
「そして、毎年少しずつ近づいていきます。私たちの目標は勝つことです」
ホンダはザントフォールト投入の新PUで、燃焼室やプレチャンバー、潤滑システムなどICE内部を中心に手を入れ、性能だけでなく信頼性の改善にも取り組んでいる。
開発開始の遅れ「追いつくのは簡単ではありません」
渡辺康治社長は、2026年シーズン序盤にホンダが厳しい状況に陥った背景についても率直に認めた。
大きな要因のひとつは、新しいF1パワーユニットの開発開始がライバルより遅かったことだ。
「私たちは開発を始めたのが非常に遅かったので、その遅れを取り戻す必要があります」
しかし、現在のF1では単純に資金や人員を大量投入すれば追いつけるわけではない。
「遅れを取り戻すのは簡単ではありません。予算制限がありますし、それ以外にもさまざまな制約があります」
そこで重要になるのが、メーカー間の性能差に応じて追加開発機会を認めるADUO(Additional Development and Upgrade Opportunities)だ。
「もちろん、ADUOのレギュレーションを活用しながら開発を加速させて、近づいていかなければなりません」
人材不足は解消「今はもう問題ありません」
ホンダのF1復帰プロジェクトでは、PUそのものだけでなく、開発を担う人材の確保も大きな課題だった。
だが、渡辺康治社長によれば、その問題については状況が変わったという。
「はい、以前は問題がありました。しかし、今はもう問題ではありません」
「人数という意味でも、能力という意味でも、十分なエンジニアを採用することができました。ですから、今は大丈夫です」
HRCのF1プロジェクトでは新たな人材を増強すると同時に、過去にレッドブルとのプロジェクトに携わった経験者も戻ってきている。
レッドブル時代の重要エンジニアがF1プロジェクトに復帰
レッドブルとのパートナーシップ時代にホンダはF1タイトルを獲得し、そのプロジェクトには多くの経験豊富な技術者が携わっていた。
渡辺康治社長は、当時の人材が現在のアストンマーティンとのF1プロジェクトに戻ってきていることを認めた。
「はい、そうです」
ただし、当時のスタッフ全員が戻ったわけではない。
「全員ではありません。ただ、当時そこで仕事をしていた重要な人たちはF1プロジェクトに戻ってきています」
HRCの新太郎・折原エンジニアも、レッドブルとのプロジェクト経験者が復帰し、新たに加わった人材も2026年のテストや実戦を通して経験を積んでいると説明しており、ホンダは2027年から2028年に向けた開発体制に自信を深めている。
「私たちは完全に準備できています」
人材面の立て直しを終えたことで、ホンダは成功へ向けて必要な体制が整ったと考えている。
「もちろんです。私たちは完全に準備できています」
ただし、準備が整ったことと、すぐにライバルへ追いつけることは別問題だ。
「すべてのチームが毎日進化しています」
「追いつくということは、相手よりも速いペースで進化しなければならないということです。それは簡単なことではありません」
トップメーカーも開発を止めることはない。現在あるギャップを縮めるには、ホンダ自身がライバルを上回る開発速度を維持する必要があるという認識だ。
2027年「今よりはるかに上にいるはずです」
アストンマーティンではニューウェイ主導によるシャシー開発も進み、2026年シーズン途中からマシンの競争力に改善が見え始めている。
では、PU側のホンダは2027年をどのように見ているのか。
渡辺康治社長はまず、インタビューが行われたオランダGPで投入した新PUを確実に機能させることが先決だとした。
「まずは今日、そしてこの日曜日に集中するべきだと思っています。このザントフォールトでのレースはかなり重要ですから」
そのうえで、今後については明確な期待を示した。
「その後、一歩ずつトップチームに近づいていきます」
「ですから来年は、もちろん現在の状況と比べれば、はるかに、はるかに上のところにいるはずです」

アロンソによるホンダ擁護「私たちにとって非常に重要でした」
ホンダが苦しい状況に置かれてきたなか、アロンソはメディアに対して繰り返しホンダへの信頼を表明してきた。
渡辺康治社長は、その姿勢がホンダにとって非常に大きな意味を持っていたと明かした。
「ホンダにとって、それは非常に重要でした」
「アロンソは素晴らしいドライバーです。そして、彼と一緒に仕事ができることは、私たちにとって極めて重要です」
ホンダが高く評価しているのはアロンソの速さや経験だけではない。PUを含めたマシンの挙動を分析し、それを技術陣へ正確に伝える能力も重要視している。
「彼のクルマについてのコメントは非常に正確です」
「そして、そのコメントが本当に私たちの開発を前に進める助けになっています」
実際、アロンソはシーズン前半からPUのドライバビリティやエネルギー供給、シフト操作などについて細かなフィードバックを行い、ホンダ側もそのデータを新仕様PUの最適化につなげてきた。
ホンダはアロンソの2027年F1継続を熱望
そのアロンソは、2027年もF1ドライバーとして参戦を続けるかどうかをまだ決めていない。
アストンマーティン側もアロンソの判断を待っている状況だが、ホンダの希望は明確だ。
「はい、もちろんです。私たちはアロンソと一緒に仕事を続けたいと思っています」
渡辺康治社長は、アロンソが持つ並外れた情熱についても強調した。
「これほど素晴らしい情熱を持ったドライバーと一緒に挑戦できることは、ホンダにとって非常に、非常に重要です」
そして、現在の競争力がホンダの求める水準ではないことも認めながら、その状況をアロンソとともに変えていきたいと語った。
「今はまだ私たちが望んでいるポジションにはいません」
「しかし、アロンソと一緒に、F1のトップチームのひとつになることが私たちの目標です」
「2027年も続けてくれることを期待しています」
さらに「アロンソは2027年も続けると思うか」と問われると、渡辺康治社長は率直に希望を口にした。
「はい、そう願っています。彼が続けてくれることを期待しています」
アロンソとホンダがともに勝利を手にした場合、それがどのような意味を持つのかという質問への答えも明快だった。
「私たちは歴史を作ることになります」
「アロンソにとっての歴史ですし、ホンダにとっての歴史にもなります」
アロンソは2027年の去就について、自身がF1マシンを運転していて競争力や楽しさを感じられるかなどを判断材料にするとしており、ドライバーを続けるかどうかは本人の決断に委ねられている。
ニューウェイとの連携「非常に緊密に仕事をしています」
アストンマーティン・ホンダのもうひとつの重要な存在がニューウェイだ。
ニューウェイとの協力によってチームはさらに強くなるのかと問われた渡辺康治社長は、これまで語ってきた「挑戦によって強くなる」というホンダの考え方を改めて示した。
「チームをもっと強くできると思います」
「先ほども申し上げたように、一つひとつの挑戦が私たちをより強くしてきました。そして間違いなく、エイドリアンとチームと一緒に、私たちはさらに強くなっています」
ニューウェイとの実際の仕事についても、良好な関係を築けているという。
「私たちは非常に緊密に、そして非常にうまく一緒に仕事をしています」
新規則 新パートナー 新燃料「最初からひとつのチームになるのは簡単ではない」
ただし、アストンマーティンとホンダが最初から完全にひとつの組織として機能できたわけではない。
2026年にはF1の技術規則が大きく変わり、ホンダにとってアストンマーティンは新たなパートナーとなった。さらに新しい燃料への対応も必要だった。
「もちろん、現在の新しいレギュレーション、新しいパートナー、そして新しい燃料があります」
「そういう状況ですから、最初からひとつのチームになるのは簡単ではありません」
実際、シーズン序盤は両者にとって非常に厳しいスタートとなった。しかし、その困難が逆にコミュニケーションを深めるきっかけにもなったという。
「非常に難しいスタートになりましたので、そうした状況を乗り越えるために、私たちは非常に緊密で、深い話し合いを続けてきました」
「その結果、私たちのコミュニケーションはずっと良くなりました」
アロンソとF1王座獲得「そのためにこのプロジェクトにいるのです」
渡辺康治社長は、現在の厳しい状況だけを見ているわけではない。
その先には、アストンマーティン、ホンダ、そしてアロンソによるF1ワールドチャンピオン獲得という大きな目標がある。
「もちろん夢見ています」
「そのために私たちはこのプロジェクトを開発していますし、アストンマーティン、そしてアロンソとのパートナーシップを築いたのです」
「なぜそう思わないのでしょうか?」
では、アストンマーティンとアロンソとともに勝てると100%確信しているのか。
渡辺康治社長は、結果そのものを保証することはできないとしながらも、目標については一切の曖昧さを残さなかった。
「100%保証できる人は誰もいません」
「ただ、私たちの目標が勝つことであることは100%確かです」

2031年V8案「F1の技術は最先端で持続可能であるべき」
インタビューでは、2031年以降のF1パワーユニット規則についても質問が及んだ。
議論されているV8エンジン復活の可能性について、渡辺康治社長はまず正式な提案が届いていないことを強調した。
「あなたはどう思いますか?(笑)」
「非常にシンプルです。まず、私はまだFIAから正式な提案を何も受け取っていません」
「もちろんニュースは読んでいます。ただ、その段階ですので、今は明確な回答をすることはできません」
一方で、将来のPU規則を考えるうえでホンダが重視する基本的な考え方については説明した。
「F1は世界最高峰のモータースポーツカテゴリーです」
「ですから、私たちはF1の技術は最先端であるべきだと考えていますし、持続可能でなければならないとも考えています。それは重要なことです」
ただし、V8を含めた将来のPUコンセプトそのものを拒絶しているわけではない。
「ただ、そのようなパワーユニットをどのように実現していくのかについて議論することには、私たちは完全にオープンです」
「まず競争力を取り戻し その先のさらに大きなものを目指します」
最後に渡辺康治社長は、現在の厳しい状況でもホンダ、アストンマーティン、アロンソを応援するファンに向けてメッセージを送った。
「これはとても重要なことです」
「皆さんの応援が私たちに力を与えてくれています。ですから、スペインのファンの皆さんのサポートと声援に感謝しています」
そして、現在地を率直に認めたうえで、ホンダが進もうとしている道筋を示した。
「今は明らかに、私たちが望んでいるポジションにはいません」
「しかし、まずはもう一度戦えるところまで戻り、競争力のある状態を取り戻します」
「そしてその後も、さらに大きなものを目指して取り組み続けます」
ホンダは2026年の苦戦を一時的な失敗として片づけるのではなく、開発開始の遅れや人材面の問題を認めたうえで立て直しを進めている。スペック2はその「最初の一歩」であり、ADUOによる追加開発、人員増強、レッドブル時代の経験者の復帰、アストンマーティンやニューウェイとの連携強化を通じて、2027年には「はるかに上」の位置を目指す。
そして、その挑戦の中心にホンダが残ってほしいと願っているのがアロンソだ。正確なフィードバックと豊富な経験、そして渡辺康治社長が繰り返し強調する「並外れた情熱」を持つアロンソとともにトップへ戻り、勝利し、最終的にはF1タイトルを獲得する。それが現在のアストンマーティン・ホンダが描く将来像であり、渡辺康治社長はその実現によって「アロンソにとっても、ホンダにとっても歴史を作る」ことを目指している。
カテゴリー: F1 / ホンダF1 / フェルナンド・アロンソ / アストンマーティンF1チーム
