エステバン・オコンとハースF1はなぜ決裂? チームとの関係悪化とカマラ抜擢の舞台裏
エステバン・オコンが2026年限りでハースF1を離れることが正式に決まった。その決断の背景には、単純な成績だけでは説明できない、ドライバーとチームの間で徐々に積み重なった緊張があった。
ハースはオコンを残留させる契約オプションを持っていたが、それを行使しないことをかなり早い段階で決めていた。さらに、後任候補として急浮上したフェラーリ育成のラファエル・カマラがテストで強烈な速さを披露したことで、オコンとの関係を終わらせる判断は決定的なものになった。
期待を集めて始まったオコンとハースの関係
オコン加入当初、ハースにとって彼は非常に魅力的な存在だった。
F1で優勝と表彰台の経験を持つ実績あるドライバーを迎えるのはチームにとって大きな補強であり、小松礼雄代表も獲得を強く推していた。両者の関係は、小松が現在のアルピーヌの前身であるロータスでシニアエンジニアを務め、オコンがロータスF1のジュニアだった時代までさかのぼる。
一方で、オコンには過去にチームメイトとの衝突を経験し、所属チームとの間でもマシンの問題を巡って意見が食い違うことがあったという評価もついて回っていた。
それでも小松はオコンを信頼し、自分との以前からの関係があれば、問題が起きた場合でも緊張が深刻化するのを防げると考えていた。しかし、その期待通りには進まなかった。
ベアマンとの関係では大きな問題なし
興味深いのは、オコンとチームメイトのオリバー・ベアマンとの関係そのものは良好だったことだ。
2025年F1イギリスGPでの接触や、2026年のスパで再び両者が絡む場面があったものの、いずれもチーム内部で処理され、ドライバー同士に大きなしこりを残すことはなかったという。
問題になったのは、オコンとハースという組織全体との仕事の進め方だった。
結果が出ないときに高まった緊張
The Raceによると、オコンはアルピーヌ時代の最後に、自分が不当に扱われたという思いを抱えてハースへ加入した。
2025年シーズン序盤、ハースはその精神的な負担を取り除き、新しい環境でオコンが力を発揮できるよう取り組んだ。しかし、シーズンが進むにつれてチーム側はあるパターンを懸念するようになった。
結果がオコンの思い通りにならないと防御的になり、ガレージ内の緊張が高まる。そしてハースは次第に、問題が起きた際にオコン自身が十分な責任を受け入れていないと感じるようになったという。
オコンは2025年を通してベアマンに敗れるケースが増えるにつれ、特にブレーキを中心としてマシンに対する不満を公の場でも繰り返すようになった。
2026年シーズン開幕時には、ハースはオコンと彼の担当スタッフとの認識を一致させるため、意識的な取り組みを行った。しかし、チーム自身がより深刻な技術的問題を抱えていることが明らかになるにつれて、再び緊張が高まっていった。
オコン側には「要求していただけ」という見方
もちろん、これはハース側から見た話でもある。
チームは、苦境に陥った際のオコンが内部であまりにも対立的になり、マシンの仕様やパフォーマンス差を疑ったり、結果的に行き止まりとなるセットアップ作業に時間を費やしたりすることがあったと感じていた。
一方、オコンからすれば、自分は率直に問題を指摘し、チームを前進させるために要求していただけという認識だった可能性が高い。
そもそもハースがオコンを獲得した際には、豊富な経験を生かしてチームを強くプッシュすることも期待されていた。そのためオコン側から見れば、加入時に求められていた姿勢が、後になって自分を放出する理由として使われたと感じても不思議ではない。
ポイント差ほど悪くなかったオコンの成績
成績だけを見れば、オコンのハースでのパフォーマンスが全面的に悪かったわけではない。
加入初年度には素晴らしい決勝結果を残すこともあった。ただし、シーズンを通して予選で苦戦する傾向があり、特に終盤にはブレーキングでマシンを限界まで攻めた際に一貫性を欠く問題があった。
2026年には、ハースに競争力があった序盤戦で大量得点のチャンスを逃した。中国では自身の判断ミスもあった一方、セーフティカーのタイミングなど不運も重なった。
ポイントだけを見るとベアマンとの差は大きく映るが、ベアマンは20ポイントのうち17ポイントを最初の2戦で獲得している。それ以降に限れば、オコンが7対3で上回っていた。
さらにハース自体の競争力低下とマシンの一貫性不足もあり、オコンが自身の価値を証明するような突出した結果を出すことは難しくなった。ベアマン自身も、マシンの挙動がサーキットによって完全に変化するため、ドライバーにとって非常に難しい状況だと認めている。

改善したときにはすでに遅かった
オコンのパフォーマンスとチームへの姿勢は、ハースから将来が危ういことを伝えられた後に改善した。
夏休み明け以降に見せたレベルを過去18カ月の大部分で維持できていれば、ハースの判断は違っていた可能性があるという。
小松も、ベストの状態にあるオコンの能力を非常に高く評価している。また、人間としても関係が良好なときのオコンについて好意的に見ているという。
問題は、その良い状態が長期間続かなかったことだった。
改善した期間が続いた後、再び以前の問題が表面化する。そのサイクルが繰り返されたことで、最終的に仕事上の関係が悪化していった。
アゼルバイジャンGPでも表れた問題
その一例として挙げられているのが、2026年F1アゼルバイジャンGPだ。
オコンは予選13番手から決勝8位まで順位を上げ、ベアマンを上回った。決勝だけを見れば、オコンの実力を示す好レースだった。
しかし、ハースが問題視したのは予選Q2敗退後の反応だったという。
最初のアタックで犯したミスについて十分に責任を受け入れず、2回目のアタックでは黄旗に妨げられたことに強く反応した。同じように黄旗の影響を受けてQ2敗退となったベアマンの方が、若く経験が少ないにもかかわらず、その状況をより冷静に受け止めたとチームは評価した。
さらにオコンは、チームへ知らせずにマシンの走行順を入れ替えたという。これもハース側には、オコンが時としてチームより自分自身の利益を優先して行動する例として受け止められた。
もっとも、この時点でオコンは自身がチームを離れることを認識していた可能性があり、関係がすでに崩れていたことも考慮する必要がある。
バクーでの決勝8位はオコンの能力を改めて証明したが、ハースの決断を変えるには遅すぎた。
数百万ドルのサラリーも判断材料に
金銭面も無関係ではなかった。
ハースは夏休み後、2027年にオコンを残留させる可能性が低いことを本人へ伝えた。ただし、その段階では完全に離脱が確定したわけではなかったという。
チームは、それまでの成績とパフォーマンスを総合すると、数百万ドル規模とされるオコンのサラリーを正当化することが難しいと判断していた。
ハースがコストキャップを下回る規模で運営され、十分な資金を持つチームではないという事情がどの程度影響したのかは明確ではない。
オコンが離脱発表時に、自分ではコントロールできない「舞台裏の要素」があると示唆した背景には、こうした事情もあった可能性がある。
「資金だけなら平川亮」という事情
ただし、ハースが単純に資金を優先してオコンを放出したという説明とは一致しない部分もある。
小松は、能力が同等と評価される2人のドライバーを比較する場合、「所属関係や彼らが持っているパッケージ」が判断材料になることを認めている。
カマラが加入すれば、フェラーリからではなく本人のブラジル系スポンサーを中心として南米から商業的なメリットを得られるとみられている。
しかし、純粋に資金やマーケティングを最優先するのであれば、トヨタが支援できる現テストドライバーの平川亮の方が明白な候補だったという。
ハースとトヨタの間では、平川が比較テストで最速だった場合にのみシートを得るという認識があった。しかし、平川は最速ではなく、トヨタ側もその結果を受け入れたとされている。

決定打となったラファエル・カマラの速さ
そして、オコンの将来を決定づけた存在がラファエル・カマラだった。
ハースはポルティマオでカマラをテスト。その際に披露した圧倒的な1周の速さにチームは強い印象を受けたという。
その日のカマラは非常に速く、比較のために走行したベアマンでさえタイムを上回ることができなかった。
もちろん、それだけでカマラが総合的にベアマンより速いことを意味するわけではない。あくまで、その日の比較テストでカマラが際立っていたということだ。
比較では平川が次点。マクラーレン育成のレオナルド・フォルナローリも安定したコンディションでは速かったものの、風が強まり難しい状況になると苦戦したという。
カマラは速さだけでなく、テストを通じてプロフェッショナルで集中した姿勢も示した。
その結果、すでにオコンとの関係を終わらせる方向へ傾いていたハースにとって、カマラを選択する決断は容易なものになった。
オコン放出はひとつの理由では説明できない
オコンのハースF1離脱は、単純にベアマンにポイントで敗れたからでも、カマラがスポンサーを持ち込むからでもない。
ハースはオコンの能力そのものを評価していた一方で、苦しい状況に置かれた際の仕事の進め方を巡って徐々に信頼関係を失っていった。そこに数百万ドル規模のサラリーという現実的な問題が加わり、さらにカマラという速く若い選択肢が現れた。
ベアマンの残留が前提となるなか、オコンは外部から現れた候補者を退けられるだけの理由をハースに示す必要があった。しかし、ポルティマオでカマラが予想を上回るパフォーマンスを披露したことで、その道は事実上閉ざされた。
バクーで8位に入ったオコンの走りは、F1で今なお高い能力を持つことを示した。それでも、ハースとの仕事上の関係を修復するには、あまりにも遅いタイミングだった。











