キャデラックF1 チーム設立の舞台裏「364日でF1チームを作る恐怖」
アメリカの新興チーム、キャデラックF1チームのエグゼクティブ・エンジニアリング・コンサルタントを務めるパット・シモンズは、「F1参入までの道のりは“かなり恐ろしい”ものだった」と振り返る。

チームは2026年シーズンの正式参戦に向けて今年3月にFIAから承認を受けたが、実際のプロジェクトはそれ以前から進行しており、当初は元F1ドライバーのマイケル・アンドレッティが主導していた。

2026年には、セルジオ・ペレスとバルテリ・ボッタスがドライバーを務め、かつてマルシャF1チームを率いたグレアム・ロードンがチーム代表を務める予定だ。

わずか364日でのF1参入準備
F1で数十年の経験を持つシモンズは2024年初頭にチームへ参加し、短期間で急成長を遂げた体制を説明した。

「これは本当に恐ろしいことなんだ」とシモンズはRacingNews365を含むメディアに語った。

「驚くべきなのは、キャデラックの全員がこの新チームに注いでいる情熱とコミットメントだ。我々が正式にエントリーを得たのは今年3月7日で、オーストラリアGPのFP1のちょうど364日前だ。364日でチームを作るなんて、本来あり得ない。だからこそ、それ以前から人材確保などに全力を注いできた」

シモンズは、最も難しい課題が「採用」だったと明かす。

「年初の時点で、英国に159人がプロジェクトに関わっていた。エリック(=キャデラックのモータースポーツ統括)らのサポートもあったが、正式参入時には209人、そして今は426人にまで増えている。この成長スピードは非常に急激であり、本当に大変だった」

F1の最前線品質を追求するチーム文化
キャデラックF1チームは現在、イギリス・シルバーストンに拠点を構えており、さらに米インディアナ州にも本社機能を持つ施設を建設中だ。そこが将来的にキャデラックのすべてのモータースポーツ活動の中核拠点となる予定である。

「私が初めてチームに来たときに最初に感じたのは、もちろん知っている顔ぶれが多かったことだが、何よりも“仕事の質の高さ”に驚かされた」とシモンズは語る。

「多くの要素が、グリッド最前列チームと同等の品質を備えている。だからこそチャレンジングなんだ。やるべきことが本当に多い」

シモンズはこれまでに約40台のF1マシン設計を手がけてきたが、今回のプロジェクトはまったく異なる難しさがあると説明する。

「F1マシンを作るのが簡単だなんて言わない。決して簡単じゃない。でも、やるべきこととそのタイミングは経験からわかる。しかし、インフラ整備、手順や物流、建物の構築といった“チームを一から作る”経験はそう何度もできるものじゃない。それが最大の難関だったが、みんな本当によくやっている」

分析:アメリカの「国家的プロジェクト」としての挑戦
キャデラックF1の立ち上げは、単なる新規参戦ではなく、アメリカが本格的にF1の競争圏へ踏み込む象徴的な試みだ。

GM傘下の技術力と、アンドレッティ由来のレース組織文化、そしてシモンズやロードンといった経験豊富なF1人材の融合によって、チームは短期間で「即戦力チーム」を形成しつつある。

とはいえ、2026年シーズン開幕まで1年半を切った現時点でも、車体開発・空力部門・エンジン統合など課題は山積しており、F1参入の“壁の高さ”を象徴する事例でもある。

パット・シモンズの「恐ろしい」という言葉は、挑戦の厳しさを語ると同時に、キャデラックがそれを真正面から受け止めている証でもある。

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カテゴリー: F1 / キャデラックF1チーム